我是否會再去〜また行くのかな(最終回/全7回)

望月竹一


9


 未明に電話が鳴った。ハロウ、といって出ると例のねえちゃん、ありがたいことである。脱水が心配だがとりあえず車に乗って空港に行くのは大丈夫そうである。



 部屋を出てロビーに降りてゆくと、カウンターの前のソファでねえちゃんが寝ていた。宿に頼んだ空港タクシーは路地を抜けたところで待っていた。屋根に提灯がついておらず、白タクかしらと恐る恐る乗った。あのねえちゃんは車まで送ってくれ、忘れ物をしないようにといった。ほかに何か言ったがよく聞き取れなかった。車にはFMがかかっていた。あっけなく邪魔をするバイクもほとんどいないハノイを車は走った。道は高速に入ったらしく徐々に広くなった。いろんなことがあったが、やっぱりハノイは好きな街だなと思った。


 ノイバイ空港についたが、運ちゃんはここだ、と以外何もいわなかった。ありがとうといって車を降りると建物の中に入った。モニターで確認するとVJ934はすでに受付を開始していた。カウンターの前まで行ってげんなりした。この早朝どこから出て来たのかと思えるくらいの長蛇の列であった。並んでいるのはベトナム人が多いようだった。カウンターの上に出ていたのはベトジェット・オール・チェック・イン、でいろんな便を一緒くたに受け付けてしまっているようである。しばらく並んでいるうちに「ナリタ、ナリタ」と声をかけてまわる職員が現れた。どうやら、時間が押してしまっているようである。おれも係員にナリタとつげて列をすり抜け早くチェックインさせてもらうことにした。


 出国審査も長蛇の列だった。それでも草色の服を着た職員がゆっくりと仕事を進めている。おれの番が来て職員の前に立つとベトナム語で何か言われた。パスポートの写真を見ながら怪訝な顔をした彼に対しておれは反射的に顎髭を撫であはははと笑った。それをみて彼はゆっくりとパスポートにスタンプを押してよこした。その場を離れると、彼は振り返ってその様子を確認していた。


 保安検査は靴まで脱がされたが、難なくパスであった。しかし、VJ934は離陸の時間が迫っているようであったので急いで通り過ぎた。


 ノイバイの免税は朝早いのにも関わらずみんなあいており、女店主だろうか年増美人のにっこりした顔が残像として残った。本当は立ち寄って手元に残ったベトナム・ドンを処分したかったが、時間が押していた。おれが目指した三六番ゲートの近くに両替ができる喫茶店があった。円に替えられるかと訊くと、USドルのみだと言うので、おれはドンの大枚を懐にしたまま、ベトナムを離れるということになってしまった。そのまま搭乗口に入り、機内に滑り込むと笑顔の挨拶が待っていた。


 ドンが両替できないのはまたベトナムに行けということなんだろうか、半ば諦めかけていたが、成田の到着ロビーにたどり着いた時に千葉銀行の看板が見えた。だめで元々でドンは替えられないかと訊くと、替えられるという。レートはよくなかったが、紙切れになってしまうよりはずっといい。書類に記入し窓口に二〇二万ドン、持っていった。ドンはなくなったが、ベトナムも大分旅行しやすくなった。ベトナム、また行くのかな、うふふ、たくましいベトナムのおばちゃんたちの顔が思い出された。


〈完〉