登れた…こんなボクでも。2ヶ月前から毎日駅まで歩いたからか…天気に恵まれたからか…いや、違う。名前が登らせてくれたんだと思う。名前をつけてくれた両親が登らせてくれた。だから、ありがとうって事でもないが、きっかけは与えてくれた。この名前じゃなかったら、写真でさえも見る事がなかったかも知れない景色、星空。感じる事がなかったかも知れない真の静寂、限りなく透明な空気、自然の巡りが教えてくれるゆるやかでありながら儚い時の流れ。う〜ん、やっぱりありがとう。登頂の証拠写真を撮り、安定の良さそうな岩の上に座り、EPIのストーブにケトルを乗せる。山頂でのコーヒーブレイク!これをやりたかった。パックのドリップコーヒーだが十分だ。お気に入りのジッポーライターでタバコに火をつける。コーヒーを飲む。遠くを見る。タバコを吸う。遥か遠くを見る。コーヒーを飲む。そっと目を閉じる。そしてゆっくりと目を開ける。間違いない、夢でもない、この場所に確かにいる。誰かこのまま時を止めてくれないだろうか…ドラえも〜んっ!しかし…
山頂での時間はあっという間に過ぎる。いつまでもその壮大な自然の一部としてこの場所にとどまり、波打つ雲のカタチを眺め、空の色の移り変わりに心を奪われていたいと思うのだが、お泊りセットは涸沢カールのテントの中にある。名残惜しいがもう降りる時間だ。さすがに下りは早い。しかし怖い。重力に逆らった登りと違い、脚はドンドンと前にでるのだが、勢いあまって転げ落ちそうになる。さらに眼下には目も眩むような断崖絶壁が見え隠れしている。体力的には楽かも知れないが、かなり気を使う。ヒザにも悪そうな気がする。なんとか夕方までに涸沢カールのテントにたどり着いた。今夜も大宇宙を眺めながら缶ビールを開ける。プシュっとしぶきがはじけ飛ぶ。星空を仰ぎ見ながらイッキに飲みほす。こんな時にふと思い出すのはやはり女性の事だ。彼女と一緒なら全ての感動が2倍3倍とふくれ上がっただろう。こういう思いはこれから先、ひとりで旅に出るたびに繰り返えされる…ただ思い出す女性はその都度変わる…かも知れない。気がつくと辺りはもうすっかり静寂の中。明日は山を降り、またオートバイの旅の続きが始まる。
