いつだったか正確な日付は覚えていませんが、2,3年前のことです。
 禁煙に成功したと言っていた友人がいました。
 その友人と、先日、久しぶりに会って会話したのですが……会ってすぐに妙な匂いがすることに気づきました。
 ちょっと臭い……その臭い、友人が喫煙していた頃に漂わせていたヤニが腐ったような匂い。
 ヘビースモーカーのなかでも、あまり服を洗濯したりクリーニングに出さないタイプの人が漂わせる独特の匂いでした。

 また喫煙をはじめたのかと呆れて、そのことを尋ねると友人はあっさりうなずきました。
 「意志がよわいなぁ」とからかうと「しかたないんだよ」との返事。
 「なにがしたかないのさ」と問いかけたところ「しかたないは仕方ないだよ、ちゃんと理由がある」と言います。
 よくよく聞いてみると、どうやら新しく付き合い始めた彼女が喫煙家だったらしいのです。
 ヘビースモーカーというほどではないらしいですが、タバコを心底愛しているその女性は、彼が禁煙していることを知ると「ガマンは体に毒よ」と喫煙を勧めてきたらしいです。

 どういう勧め方をして、友人がどう応じたのかは知りませんが、結果として彼の禁煙はそこで終わったようです。
 「毒」はむしろその女性のほうのようにも思えましたが、彼女にしても悪気があってのことではないでしょう。
 本当に、タバコを我慢することが体に悪いと思っているのだと思います。たしかに、過度な我慢は肉体と精神に多大な負担をかけますから「悪い」と言えなくもないですが、どう考えても喫煙の方が体に毒です。
 そして、彼女がふりまいた何気ない「毒」は、なにも彼女だけが特別に無知だからというわけでもありません。
 喫煙者は総じて、この「毒」を振りまくことが多いのです。
 自分が吸っているのだから、喫煙という行為がそれほど体に悪いはずがない。現に自分は健康体だ。なにも不自由もなければ苦しいこともないのだから……とそう思っている人がほとんどです。
 頭で喫煙の危険性を理解していても、喫煙という行為をかなり軽く扱っているのです。
 禁煙を咎める、喫煙を勧めるという行為は、「はやく死んでください」と言っているようなものですが、そんなことを言われても大部分の喫煙者は「なにをおおげさな」と一笑にふすでしょう。
 私自身は他者の喫煙をつよく咎める気はありません。
 ですが、努力して禁煙に成功したであろう友人に、喫煙を勧めるという行為はやはりあまり気分の良いものではありませんでした。



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