今回は、日本を代表する森のウイスキー**「白州12年」**を主役に、爽やかな香りと「恩師との約束」をテーマにした一編をお届けします。
🍳『TKGたあくん酒BAR』
第28話
「白州12年と、山わさび香る卵かけご飯」
**著:兎羽流葉(うぱるぱ)🪶
深夜0時48分。
窓を少しだけ開けると、
夏の夜風が店内を通り抜けた。
木の香り。
土の匂い。
都会なのに、
どこか森の中へ迷い込んだような夜だった。
「TKGたあくん酒BAR」。
今夜も、
一つの物語が始まる。
カラン。
扉が静かに開く。
入ってきたのは、
六十代前半の男性。
白いシャツ。
紺色のジャケット。
右手には一冊の古びた大学ノート。
「いらっしゃいませ。」
たあくんが声をかける。
男性は少し照れながら言った。
「先生だった頃のノートなんです。」
「先生?」
「高校で国語を教えていました。」
「今日は何か特別な日ですか?」
男性はゆっくり頷いた。
「恩師の命日なんです。」
酒棚から一本のボトルが下ろされる。
白州12年
南アルプスの森で育まれたシングルモルト。
青りんご。
ミント。
若葉。
ほのかなスモーク。
「森の蒸溜所」と呼ばれる一本。
たあくんは少量の加水で香りを開かせた。
男性は目を閉じる。
「……森林浴ですね。」
「白州は、
飲むというより深呼吸するお酒なんです。」
厨房では炊きたてのご飯が湯気を立てる。
卵を一つ。
割る。
艶やかな黄身。
そこへ、
北海道産の山わさびをすりおろす。
醤油を数滴。
刻み海苔。
白ごま。
最後に、
少量の削り節。
「お待たせしました。」
山わさび香る卵かけご飯。
男性は箸を持つ。
山わさびを少し混ぜる。
一口。
「……!」
鼻へ抜ける爽やかな辛み。
卵の甘み。
ご飯の香り。
思わず笑みがこぼれる。
「これは初めてだ。」
白州を一口。
山わさびの余韻と、
白州の爽やかさが重なる。
「森だ。」
男性はぽつりと言った。
「実は。」
ノートを開く。
中には、
赤ペンで書かれた文字。
『人に伝わる文章は、
まず自分の心を動かせ。』
「大学時代の恩師の言葉です。」
たあくんは静かに聞く。
「教師になって四十年。」
「はい。」
「一度も忘れたことがありません。」
「でも。」
男性は苦笑した。
「退職したら、
誰にも教えることがなくなってしまった。」
たあくんは微笑む。
「先生。」
「はい?」
「教える相手は、
学校だけじゃないですよ。」
男性は顔を上げた。
「お孫さんでも、
近所の子でも、
本を書くことでも。」
「……。」
「言葉は、
誰かに届いた瞬間から、
また生き始めます。」
男性はノートを閉じた。
「そうか。」
店内にジャズが流れる。
白州12年の森の香り。
山わさびの爽やかな刺激。
卵の優しい甘み。
まるで、
新緑の林を歩いているような時間だった。
男性は最後の一口を食べ終える。
ノートを胸に抱きながら言った。
「明日から、
近所の図書館で子どもたちに本を読もうと思います。」
たあくんが笑う。
「先生は、
一生先生ですね。」
男性は照れくさそうに笑った。
「そうみたいだ。」
帰り際。
男性は白州のボトルを見つめた。
「先生。」
たあくんが言う。
「森は、
毎年葉を落としても、
また芽吹きます。」
男性は静かに頷く。
「人も、
何歳からでも始められる。」
カラン。
扉が閉まる。
夏の風がまた店内を通り抜けた。
たあくんは白州のボトルを磨きながら、
小さくつぶやく。
「言葉も、
卵も、
人を元気にできるんだな。」
🪶うぱるぱのあとがき
白州12年は、
「森を飲む」と表現されることがあります。
青りんごのような爽やかさ。
若葉を思わせる香り。
そして、
優しく続くスモーキーな余韻。
ゆっくり深呼吸したくなる一本です。
今回合わせたのは、
山わさび香る卵かけご飯。
普通のわさびとは違い、
山わさびは力強い香りがあります。
その刺激が、
卵の甘さをより引き立ててくれます。
今回のテーマは、
「教えることは、生きること。」
知識は、
しまっておくためではありません。
誰かへ手渡すためにあります。
料理も。
お酒も。
人生も。
誰かへ受け継がれていくから、
価値があるのだと思います。
今日も一杯の卵かけご飯が、
誰かの背中をそっと押してくれますように。
著:兎羽流葉🪶
🍳レシピメモ
「山わさび香る卵かけご飯」
材料(1人前)- ご飯 1膳
- 卵 1個
- 山わさび(すりおろし) 小さじ1
- 醤油 小さじ1
- 削り節 ひとつまみ
- 刻み海苔 適量
- 白ごま 適量
作り方
① 温かいご飯を盛る
② 卵をのせる
③ 山わさびを添える
④ 醤油を回しかける
⑤ 削り節・海苔・白ごまを散らす
コツ
山わさびは食べる直前にすりおろすと、
香りが一番引き立ちます。
合う酒
🥃 白州12年
🥃 駒ヶ岳
🥃 スプリングバンク10年
📚 第28話 たあくん語録
「言葉は、誰かに届いた瞬間から生き始める。」
「森は毎年芽吹く。
人も、何歳からでもやり直せる。」
「一冊のノートが、一人の人生を支えていた。」
🍳 次回予告
第29話
🥃 オーバン14年
🍳 鯛ごま卵かけご飯
テーマ
「定年後、初めて妻へ『ありがとう』と言えた夜。」
海辺の町で過ごした夫婦の思い出を、潮の香りをまとったオーバン14年とともに描きます。
ほな、またーくん


to be continue


