🍳『TKGたあくん酒BAR』
第17話
「ボウモア12年と、いぶりがっこクリームチーズ」
著:兎羽流葉(うぱるぱ)🪶
深夜2時22分。
西川口の夜は、
少しだけ涼しくなっていた。
雨上がりのアスファルト。
遠くのネオン。
静かな風。
そんな夜にだけ似合う酒がある。
そして、
そんな夜にだけ来る客もいる。
「深夜の卵あります。」
木札を眺めながら、
ひとりの男性が階段を上がってきた。
四十代後半。
眼鏡。
白髪が少し混じる短髪。
スーツ姿。
右手には革の書類鞄。
左手には文庫本。
どこか知的な雰囲気だった。
カラン。
扉が開く。
「いらっしゃい。」
たあくんが笑う。
「本を持ってる人は、
だいたい酒が好き。」
男性が笑った。
「偏見ですね。」
「かなり当たります。」
カウンター奥へ座る。
少し暗めの席。
静かに飲みたい人が好む場所だった。
「今日は何にしましょう。」
男性は酒棚を見上げる。
そして一本を指差した。
「アイラ系あります?」
たあくんの目が少し輝く。
「お好きですか。」
「ええ。」
「では。」
取り出されたのは、
ボウモア12年
アイラモルトの代表格。
海。
潮風。
焚き火。
スモーク。
そんな言葉が似合う酒だった。
ロックグラスへ注ぐ。
カラン。
今日は氷ひとつ。
男性は香りを嗅ぐ。
そして微笑む。
「・・・いい。」
「海ですね。」
「海ですね。」
二人とも笑う。
その時。
たあくんが冷蔵庫から取り出したのは、
クリームチーズ。
そして――
いぶりがっこ。
秋田名物の燻製たくあんだった。
男性が笑う。
「それ反則。」
「分かります?」
「大好きです。」
クリームチーズ。
刻んだいぶりがっこ。
黒胡椒。
少量の蜂蜜。
混ぜる。
完成。
シンプル。
でも最強だった。
「はい。」
男性は一口。
そして静かに目を閉じる。
「・・・。」
「戻ってきてください。」
「これは危険だ。」
燻製香。
チーズのコク。
たくあんの食感。
そこへボウモア。
全部が繋がる。
まるで同じチームだった。
男性は酒を飲みながら呟く。
「娘がね。」
たあくんは黙って聞く。
「来年結婚するんです。」
「おお。」
思わず笑顔になる。
「おめでとうございます。」
男性は少し照れた。
「ありがとう。」
カラン。
氷が鳴る。
「嬉しいんだけどな。」
「寂しい?」
男性は笑う。
「少し。」
BARの灯りが揺れる。
「小さい頃、
ずっと肩車してたんだ。」
「いいお父さんですね。」
「いや。」
少し首を振る。
「仕事ばっかりだった。」
沈黙。
でも、
ボウモアがその空気を柔らかくする。
たあくんが言う。
「燻製って不思議ですよね。」
男性が顔を上げる。
「時間が味になる。」
少しだけ静かになる。
「人も同じかもしれません。」
男性は笑った。
「今日は哲学だな。」
「卵屋も年取るんです。」
二人とも笑った。
深夜3時。
外は静かだった。
ボウモアの煙。
クリームチーズ。
燻製の香り。
ジャズ。
全部が、
父親の少し複雑な気持ちを包んでいた。
男性は最後の一口を飲む。
そして静かに言う。
「結婚式、
泣くかもな。」
たあくんが笑う。
「絶対泣きます。」
「やっぱり?」
「ボウモア三杯飲んだら確実です。」
二人とも大笑いした。
カラン。
扉が閉まる。
またひとつ、
人生の話がBARに残った。
🪶 うぱるぱのあとがき
ボウモア。
アイラモルトの中では比較的優しい。
煙たい。
でも優雅。
潮風の香りもする。
そんな酒です。
そして、
いぶりがっこクリームチーズ。
これは居酒屋界の発明。
考えた人は天才。
燻製香とウィスキーは本当に相性がいい。
今回のテーマは、
「父親の時間」
でした。
子供はいつか巣立つ。
でも、
思い出は酒の香りと一緒に残ります。
著:兎羽流葉🪶
🍳 レシピメモ
「いぶりがっこクリームチーズ」
材料- クリームチーズ 50g
- いぶりがっこ 30g
- 黒胡椒 少々
- 蜂蜜 少々
作り方
① いぶりがっこを細かく刻む
② クリームチーズと混ぜる
③ 黒胡椒を振る
④ お好みで蜂蜜を少量
コツ
いぶりがっこは細かく刻みすぎない。
食感を残す。
合う酒- ボウモア12年
- ラフロイグ10年
- アードベッグ10年
📚 第17話 たあくん語録
「時間は、人も酒も旨くする。」
「父親は、娘の結婚式に少し弱い。」
「燻製の香りは、思い出をゆっくり呼び起こす。」
ボウモアは🦪カキに垂らすと燻製牡蠣になりますなー
ほな、またーくん


to be continue


