9巻 

B6版 p192

吉家は平良の住むタワーマンション最上階で同棲をスタートさせる。仕事先の吉田が個展を開くと聞き、吉家は将来の「夢」について考えるように。平良の大きな夢の話も聞き、焦りを感じる吉家。そんな時、百貨店の担当が、真霜から紺ノという若い女性に代わる事になり…。真霜と吉家の高校時代を描いた、同時収録の「隣の微熱」は最終話! 吉家を押し倒してしまった真霜は…!?

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集英社マーガレットコミックス 2023年11月発売 桃森ミヨシ

 

 

9巻の感想

いよいよ同棲が始まったきっかと平良さん。

滑り出しは好調で、とっても仲の良い新婚のような甘い2人生活・・・

かと思いきや、家事はすべて家電とお手伝いさんにまかせ、料理はウーバーイーツか外食という暮らしの平良さん。お金をだすのも平良さん。家事も別にやっていらない平良さん。

きっかに求められることは「2人で楽しい時間をすごす」ことだけ。

でもこれって逆に大変ですよね。共同生活において自分の役割がないことにストレスを感じるきっかは、生活面で役に立てないかわりに、どうしたら自分の存在意義を持てるか試行錯誤しはじめる。

平良さんの、自由で勝手な働き方を享受し、没頭してしまうと連絡すらできない平良さんを受け入れる。

女性としてかわいくあろうとする。(かわいいが好きな側のくせして)

平良さんのワールドワイドなスケールのでっかい夢を応援する。

そのどれも間違ってはいないんだけど、きっからしさからどんどん離れていってる気がするんだよね。本当にしたいことは何?

別々に暮らして、仕事を頑張りつつ、たまに会える時間を楽しんでいた時の方がずっとイキイキしてたように見えるきっか。

だけどこの平良さんのスタイルは専業主婦を夢見る女性からしたら、信じられないくらい理想的で王子様なんだよね。きっかにとってはそうじゃないだけで。

 

何が自分を幸せにするか、それは本当に人によって違うんだということが徐々に明らかになってくる9巻です。

 

同棲を決めた8巻のモノローグで

 

私はまだ気づいていなかった

ひららさんの根本はヘタレじゃないこと

想像以上に

男の人は闘争心があるんだってこと

 

というきっかの思いがありました。その闘争心のかけらが9巻で見えてきます。

きっかを独占したい平良さん、強引さも持ち合わせ、柔らかな優しい態度なのに自分の要求を曲げない。

ただ、傷つけてしまったと気づいたらすぐに謝って、話し合いができる点は本当に平良さんの大きすぎる利点。なんかむかつく、なんか悲しい、失敗した、みたいな曖昧なままで放置せず、相手をわかりたいわかってほしいという思いがあるからこそ、歩み寄り話し合いの場をすぐ持てるのは、カップルで大切なことだもんね。

8巻では「この同棲が予想もしない形で中断してしまう」ともありましたが、9巻ではまだその片鱗は見えません。なんたって始まったばかり。

新婚のようなふわふわした生活をしつつも、平良さんの高年収特有の身勝手さがだんだんわかってくる。

実際、高年収だからこそ許される働き方とか身勝手さってあるよね。それだけ稼いでいるんだから仕方ない、で済まされることは現実でも多い。

そのほころびがだんだん広がっている気がする1冊です。

 

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そして今回のメインはなんといっても「隣の微熱」最終回!

最後まで本当に満足する番外編で、ましもくんの魅力が堪能できる1冊でした。。。!

高校時代のましもくんは今でもその純粋なマインドが変わっていない。「男性にとって初めての彼女はしぬまで特別なんだ」説を証明しまくっているましもくん。

「隣の微熱」のメインはまさに「200m先の熱」1巻冒頭シーンであり、ここでましもくんの青春は完結しないまま今に至るのです。

自分が情けなくて、恥ずかしくて、逃げて。

彼女に向き合わないまま高校を卒業して。

大学からも変われなくて。

でもそんなましもくんを救ったのはやっぱりきっかでした。

 

 

私たちはもう恋人じゃないし

お隣さんでもなくなる

だから違う形を考えてみたの

この先 もし何か困ったことがあって

特別な人も助けてくれる人もいなくて

その時ましもくんが

私を嫌いじゃなかったらでいいから

 

私を思い出して

 

 

心の中のお隣さんとしてつながっておきたい」という約束をしたきっか。

これは今後、ましもがきっかを思い出し助けてもらう時がくる布石なのか。

それともただ綺麗な別れをしただけなのか。

もし布石なんだとしたら結構な伏線ですから、回収するのかしないのかもわかりませんが、私としては期待せずにはいられないです。

隣の微熱、最終回はこじらせ不器用な男子高校生の純愛をたっぷり堪能できる、満足の1冊でした。

高校生の二人の初体験シーンは今回がましも視点で描かれるため、1巻冒頭のきっか視点とは異なるのも見どころ。きっか視点での初体験のましもはわりと強引で自己中でしたが、ましも視点でのましも(自分)はものすごくみっともなくて、きっかはとってもラフで自然で慣れてないウブな女の子に描かれていました。ふたりの意識の差が面白いです。

ラストの方もかなり雑誌掲載時から改変されて、コミックスにつながるようになっているのもチェック!

 

 

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