『蟲師 特別編 鈴の雫』を観てきた。

この物語は原作『蟲師』連載時の最後の話だ。
そこには、ギンコ以外、馴染みの顔は登場しない。
淡々と、今までと同じような話があるだけだ。

理、という言葉が『蟲師』では大きなキーワードだ。
ギンコはいつも、その理に沿って生きている。
そして、理の中で彼は蟲を退け、時に利用し、それを生業として生きている。
理から逸脱するようなことはしない。
如何に人の理に対して不尽であってもだ。

だが、この話に限り、少女をヒト側に引き戻すために、彼は蟲どころか理にさえ相対する。
山の偉大さそこに生きる動物たちの強さに比して、ヒトの弱さ、小ささを語る。
「ヒトには知恵も心もある」
「それらは山の礎として潰されても、わずかな光で蘇る」
「だから脆い」

と。
彼自身が歩んできた蟲師としての答なのだろう。
ギンコは極端に理に近いヒトだ。
山のヌシとして理に近づいてしまった少女に、一番近い蟲師であるはずだ。
彼女にヒトでいて欲しい、そう願う心が彼にはあったんじゃないだろうか。ヒトの理で生きて欲しい、と。

ギンコは極端に理に近いヒトだ。
だから、蟲に興味を持つ。理側のモノとして。
だから、その中で生きる人々に興味を持つ。ヒト側のモノとして。



作品の最後。少女は理の中に還っていく。
ギンコは涙を流さない。
己の非力さを嘆くこともしない。自分がヒトであり、弱い存在だと知っているから。
そうして、ヒトの世界に帰るために、ふたつめの瞼を開く。



「さて、行くかね」
と彼はヒトの世界のどこかに行く。
あの、大きな荷を背負って。