ログハウスより祈りを捧ぐ(88回) | 長編小説 『遙かログハウスより祈りを捧ぐ』

長編小説 『遙かログハウスより祈りを捧ぐ』

 いつの日かまたお会いいたしましょう。

 この二日間が過ぎると、病人の転居が朝早くあった。身の回りのものを積み込んだ主人の車と病人の乗ったタクシーが私らの待ち受ける中に到着し、病人は嬉しそうに一人で降りたってログハウス前の地面を踏みしめた。


 病人夫妻と人夫氏夫妻とは初対面だ。講師がお互いを紹介し挨拶を交わしているところに館長夫妻も駆けつけた。


 講師が病人を支えようとすると


『有り難う。もう一人で大丈夫なの。』

としっかりした足取りでコーヒールームへ入っていく。


 あの死と直面していた重病人とはとても思えなかった。その夫の嬉しそうな挙動も印象的だった。講師がコーヒーを入れた。そのコーヒーを口にしながら病人はハシャイでいたが、夫の方はしきりに涙を拭いていた。


 ひとしきりログハウスについての話題に花が咲き、病人が水辺の趣向をこの目で確かめたいといいだし夫婦揃って水辺を辿った。


 やがて人夫氏夫妻が温泉開場の準備に行き、講師が病人を寝室や居間などの案内に連れ出すと、あとに病人の夫と私が残された。夫は


『お世話になります。』

と再び頭を下げた。


 たくましい体育系の体つきに似合わずなかなか細やかな神経の持ち主だ。私は


『なにも心配せずにゆっくり存分に療養させてあげてください。温泉はどうなんですか?』

と応じた。


 お医者には日に二回ぐらいまでならいい効果が期待できるでしょうといわれたという。


『何事も過ぎないようにさせます。』

と体育系夫は笑った。


 やっと彼も平常心に戻れたかと私は安心した。青白くやつれきって口をきくのも辛そうなほどのあの重病人を死の淵から引き戻しここまでにしたのだから、ここまでがさぞ大変だったろうとその労苦と今の喜びを思いやった。


 そこへ講師がやってきて体育系夫に「すみません。」と断って、私にクッキーを焼くので手伝ってくださいと促した、ネコの手も借りたいログハウスだった。それからは私たちは温泉開場の準備に没頭した。

      ~続く~