寺山修司~プロ野球無宿 | 世界の歌謡曲

世界の歌謡曲

その日の気分で 心に残る歌

 

寺山修司という天才がいた

 

二人のさびしい唖がいた。一人はピッチャーという名前で、もう一人はキャッチャーという名だった。二人は言葉の代わりにボールを投げあうことでお互いの気持ちをたしかめあっていた。二人の気持ちがしっくりいつているときにはボールは真直ぐに届いたが、ちぐはぐなときにはボールは大きく逸れた。ところが、この二人の唖に嫉妬する男があらわれた。彼はなんとかして二人の関係をこわしてやりたいと思い、バットという樫の棍棒で、二人の交わしている会話のボールを二人の外の世界へはじきとばしてしまったのだ。

 ボールを失った二人の唖は途方にくれた。棍棒でボールをはじきとばした男は、悪魔のように両手をひろげて、二人のまわりを走りまわった。1周するたびに数が記述され、その数が増えてゆくことが二人の唖の不幸度をあらわすのだった。そこで、二人の唖のもとへボールを返してやろうとする七人の唖が集まってきた。彼らは、棍棒を持った男を殺すために<陽の当たるあたる土地>からやってきたのであり、なぜか左手だけが異常に大きいのであった。

 

未刊詩集<ロング・グットバイ>より 『九人の唖の物語』

注)差別用語が含まれますが 掲載します

 

「あしたはどっちだ、寺山修司」