ウンスが目覚めたのは、翌朝だった。

ヨンは心配そうに顔を覗き込み
「大丈夫か?」と聞く。

「はっ!患者さんは?見なきゃ!」と
言うと、肩を抑えられ、

「サジュナがみておる。何かあれば
呼びに来るであろう。まだ休め!
あれ程神経を集中させたのだ。
疲れて当たり前だ。あんな手術は
初めて見て驚いた。」

「ヨンは此処に居ていいの?
王宮に行くんじゃないの?
待ってる人がいるんじゃないの?」と
ずっと、目を見ようとしない。

いつも言葉が足りない自分を
情けないと思った。向こうの
ヨン殿なら決してこのような
思いをウンスにさせないだろう。

「ウンスや、すまぬ!ちゃんと
話すべきであった。」

「嫌っ!聞きたくない!」

「違うんだ!ジェイミーの所で
新しい兵器を作っておった。
ウンスがシャボン玉は身近にある
石鹸から作れると言った事で
新しい兵器を思いついた。

あの石鹸の材料のような形のような
物だ。今、明国が勢いをましている。
いつ攻めて来られても良いよう、
巨大な大砲を置いたが、難を逃れる
為に端に集まるだろうと。
そこにあの様な形の兵器を作り、
昨日、禁軍とウダルチをそれを
埋め込む作業に行かせた。」

「もしかして、地雷?」

「ああ、その地雷を作るのに、
王宮に入浸り、子供達の成長も
見逃し、ウンスにいらぬ心配を
与えてしまった。すまぬ。」

やっとこっちを向いたウンスの
瞳から涙が溢れた。

「なんでいつも言葉が足りないの?
言ってくれなきゃわからない事が
あるのよ?」

ヨンはウンスを抱きしめると
「すまぬ!本当に俺は言葉が足りぬ
幸せにすると言っておいて、
気鬱を与えてしまった。向こうの
ヨン殿なら絶対に不安にさせたり
しないだろうと、反省した。」

「比べたりする必要はないのよ?
ヨンはヨンでしょ?言葉が足りない
事も知ってる!無口なのも知ってる!
そんなヨンを好きになった!
でも、時々物凄く不安になる事が
あるの。ごめんなさい。」

「不安になるのは当たり前だぞ?
ウンスが高麗で生きて行くと
何もかも捨てて俺の所に来て
くれたんだ。高麗に来て数年しか
たってないんだぞ?仕来たりやら、
不便なこの時代に慣れようと
ウンスは一生懸命だったのは、
俺はよく知っている。

だから俺はウンスを
不安にさせてはいけないのに、
つい甘えが出てしまう事がある。
ウンスが謝る事など、一つもないぞ。
俺の配慮が足りなかったんだ。ごめん!」

「うう…誰か…ヒック…他に好きな人が
…王宮にいるのかと…側室とか…ヒック」

「そんな事を思わせてしまったのか?
俺は役目から離れると言っておいて
また、約束を違えてしまった。
ウンスの言う通り、武士の約束は
命懸けなら、俺の命はたくさん
ある嘘つきだな…ごめん!
だが俺には一生ウンスだけだ!
だから、不安にさせてごめん!
泣かないでくれないか?
許してくれないか?
こんな状態であんな凄い手術を
するなんて、俺のウンスは凄いぞ?」

「うん…できなかった事ができたの。」

「そうか?またウンスの努力が
実ったんだな?凄い手術だったぞ?
偉かったな?」ギュッと抱きしめた。

「汗をかいただろ?風呂に入るか?」

「うん。一つのミスも許されない
手術だったの。だから凄く緊張した」

「そうだろうな?心臓の手術など、
できる者などいないし、
あのたくさんの血管とやらを
傷つけぬように真剣で集中力が
凄いのが伝わったぞ?トギが
汗を何度も拭いてたのも
気づかなかっただろ?」

ヨンはウンスを抱き上げると
風呂に連れて行き、一緒に
風呂に入った。
ウンスの身体も洗い、髪も洗った。

風呂からあがると綺麗に拭いて
着替えさせた。

サジュナがやって来た。
「奥様!患者さんが目を覚まし
ました。話しもできます。」と
言いながら、ウンスの脈を診る。

「凄い手術でした。あんな事を
可能にしてしまうなんて、相当
神経を使ったと思いますが、
後の事はお任せ下さい。
暫く休む必要があります。

奥様?滑脈が見られます。
今は安静になさって下さい。」

「えっ?滑脈?うそ?」

「ん?どうした?ウンス?」

「旦那様、おめでとうございます。
奥様はご懐妊されてます。
しかし、まだ初期の段階です。  
子が流れ易い時期なので、
旦那様も暫く我慢を。」

「まことか!ウンスや!有り難い!
ああ、駄目だ!駄目だ!動いては
ならぬぞ?集中力と体力をつかった
のだ!寝てなくては。」

「でも、まだ月のモノが不規則だわ?
いつ授かったのかしら?」

「もう、御乳はお止めになさって
下さい。まだ初期でございます。
刺激を与えるとあまり良く
ありません。」 

ウンスは自分で静かに脈を診た。
「ほんとだ!まさか、こんなに早く
できるなんて思わなかったわ」

ヨンは走って部屋を出ると
両手にウンスの母親が持って来た
貧血の薬を抱えて戻ってきた!

「ウンス?薬は?飲むか?」
「旦那様、奥様は貧血体質なので
今日は一度だけ飲ませてあげて
下さい。」コクコクと頷く。

「ウンス?飯は?食えるか?」
「うん!お腹空いた。」
ウンスを抱き上げるとサジュナが
クスッと笑った。

「奥様?旦那様の過保護が
始まります。ご覚悟を!
旦那様?気鬱が一番駄目です。
精神的苦痛は身体に悪いです。」

とその場を去った。