私は、畑を手伝ったり奥様に漢字を習ったりして静かに暮らしていた。


旦那様は、元武官だったが、奥様と二人で余生を送るため、畑を開拓したり、釣りで魚を獲ってきたりと、慎ましくもご夫婦中の良い二人だった。


ある日、旦那様(ジンジュ)が鎌で作業中、足に大怪我をした。奥様(ヒミン)は、泣きながらオロオロとして、止まらない血を抑えていた。


私は、封印していたカメラバッグから、必要な物を全て取り出し、この地にはない医療を施した。動脈を繋げ、傷口を縫うその行為をジンジュ様もヒミン奥様も驚きを隠せずにいた。


私は、今まで話してなかった自分を語りはじめた。「私は、天門と言う時を超えるところを潜り、此処に辿り着いた先の世の者です。私が戻りたい100年後の世では、この医術を政や先を読む力と言う故事つけで辛い目にあったので、どうか、この医術の事は見なかった事にしてほしいのです。」と掻い摘んで言った。


ジンジュは「わかりました。だが、どうしてそのようなところに戻ろうとしているのだ?」と不思議に聞いたので、


「命より大切で恋慕う人に逢いたくて…」と一言だけポツリと言った。


ジンジュは「確かにその医術は政の駒にされかねぬし、今は蒙古の兵が力を増している。へたをすれば、蒙古も黙っておらぬだろう。ただ村人の病気を診てほしいので、家の隣りの東屋を好きに使うと良いでしょう」

そして私は、畑を手伝いながら、細々と患者を診て、夜は漢字を学んだ。時折襲う蒙古兵がくると、もしもの為にとジンジュが掘った地下に隠れ、息を殺して遣り過した。ウンスは、なるべく髪の色や顔が目立たぬよう笠を深く被り髪もかくした。「この格好じゃ、どこから見ても怪しい女だわ。でも、この身を守る為ならなんだってする!」


虫垂炎の手術もした。だが、ウンスは、何よりも薬草の知識を優先した。漢字も読めるようになった。一度蒙古兵に囲まれた時は、村人やジンジュ様が助けてくれた。

そして、ウンスは、何よりもやらなければならない事があった。未来への自分宛の手紙を書き、天門の開く日を計算する。

「秋には天門が開くわ」あの人に逢える!その夢を追って信じてその日を待った。

お世話になった…いや、ここまで面倒をみてくれたご夫婦には、返しきれぬ恩があったが、天門へ向かう日が来た。

ジンジュと腕の立つもの5名程が、蒙古兵の襲撃に備え天門まで送ると言う。おそらく凄腕の剣士だったに違いないジンジュの言葉に甘え…ウンスは、天門へと辿り着いた。余計な物は全てジンジュに渡し、深々とお礼をして、別れをつげた。


そして…青白く輝き出した光の中へウンスは消えた。