Sopa DE Casa旅情研究所 -6ページ目



「一人で来たの?」

出された手羽先をむしゃりむしゃり食べていたときに、
カウンター越しからそんな声が聞こえたのでした。



初めての一人旅、一泊二日の旅の1日目夜のこと。

当時はスマホなんてものもなく、僕はガイドブック片手に旅行することも知らなかった。
だから、情報だって、人から聞いたこと以外、なにもない。

 

生活しているときに違う道を歩くことも(ほとんど)しなかったぼくは、
気になるお店に入ることはおろか、そもそも「気になる」ということができなかった。

なんとなく、旅をしているときにする行動の中で、
見知っていて、一人でも身動きができそうなことは、「電車」と「バス」に乗ることくらい。


だから、自然を見るか、景色を見るか、下を向いて行動していた僕は、
別に誰かに話しかけられることもなく(そんなオーラだった)、
もくもくと音楽を聴きながら電車に乗っては降り、乗っては降りを繰り返していた。


雨も降らず、カラッとした気持ちの良い空気のはずで、
わざわざ途中下車して渓谷の紅葉も、とてもきれいだった。

色づいた秋の葉が風に吹かれて小川に降っている様子を見て、
けれども、僕が息をして笑っているのが周りに見られないように歩いて、
感じたことをこそこそメモに取りながら、歩く。


そんな風に何に気を使っているのかわからないけど縮こまって歩いてて、
気づかないようにしていたけれど、、
どうにもこうにも腹が減るのである。


当時の僕は、「わざわざ旅にでて、チェーン店には入りたくないぜ」
みたいな通っぽい理屈ではなく、
誰も知り合いがいない旅先でお店に入って、「これください」と頼むという芸当が、
本当にできなかった。

それでも何とか生きてこれた。現実では。


山形新幹線の終着駅で14時くらいに、恥ずかしさをこらえて「ジャンボ肉まん」を一個買い、
そこから20時まで、何も食わずで過ごしていた(自販機があるので、お茶は買って飲んだ)。



もう限界だ…。お腹減った。。
我慢できない。いつかは人に何かを頼まなきゃならない。


でも結局、ずーっと人と話せず(だから何も食べずに)、山形の日本海側を抜けて、新潟まででてきた。


もう、このあと行くのはホテルだけ。
ここでなんか食べておかないと、、もう何も食べられねえ…。


新潟まで来たんだから、お米が食べたい。
食欲と気恥ずかしさとの、葛藤が始まる。

飛び込んだお店は今も駅構内にある、ちょっと居酒屋風のお店だった。

明らかに高校二年生がはいるお店のチョイスではなかったのだろう。
自分でも気づいていたから、まごまごしていて、
立てかけているメニューの前で、難しい顔をして、
1分くらい立ったりしゃがんだりしていた。


息絶え絶えに、店に入り、カウンターに通され、
水を飲みながら「おにぎり」と「手羽先焼き」を頼んで、
そわそわしながら、料理が来るのを待っていた。

確か21時半にチェックインだから、あと20分くらいで出ないと。みたいな気持ちで、
仕方なく来ているのだ、的な恥ずかしさを隠すみたいな、とにかくそういう情報を入れて、
なんとか恥ずかしさをごまかしていた。


商品が出されてきたときも、隣も前も見ずに、
もう食べ物と自分の世界に閉じこもって食べていたわけである。



だから、声をかけられた時には、
もうどうしたらいいのか、わかったもんじゃなかった。

はずなのだけれど、
「えっ?あ、そ、そうです」
というぎこちない返答で、ようやく我に返った。

なんか悪いこと…してますかね?居酒屋に高校生一人だから、
くらいな感じで、おそるおそる僕は答えを返した。


白い板前服を着たおっちゃんが言う。

「お店の前でね、しばらくメニュージッとみてたから、
 入るかなーどうかなーと思って見てたんだよ。」

「旅行できたの?」
少しはにかんで、「そうなんです。一人で来たんです」と答えた。


ちゃんと「ごちそうさまでした」も言って
「また来ます」くらい言えればいいのだけれど、
そこまでは、言えずに、店を出た。


でも、そこから僕は、ちょっと大人になれた(気がする)。



2018年10月末




▼このエピソードから、旅情を醸しだすキーワードや文章をピックアップする。
 ・今の自分にできる行動の領域が極端に狭い(少ない)
 ・窮屈さや自分で作り上げた「殻」を実感する
 ・空腹状態(≒食欲の高まり)
 ・おいしい食事(→「食」それ単体ではなく、空腹状態と合わさることで、思い出に強く残る)
 ・余計なことで頭いっぱいな状況
 ・不意打ちのコミュニケーション
 ・「どうするのかな、ってちょっと気になって見てたんだよ」という言葉
  (この、どうするのかな?っていう言葉が大事ですね。「気になってみてたんだ」だけだと、怖いっす)
 ・数少ない会話のシーン


▼純粋な振り返り
 人生初一人旅。
 今度はハートフルな思い出です。
 新潟と聞いて、今でも真っ先に思い出すのは、いつもこのおっちゃんです。

 手羽先しか見てなかったので、顔は一瞬しか見ていません。
 正直あんまり、覚えていません。

 でも、感謝しています。

 本当、すごいシャイボーイだったのによく一人旅なんてしようと思ったな…と、
 振り返れば驚くばかりです。


 「名前も知らない人」とのささやかな出会いがあったなんていう、
 旅のだいご味を、一番初めの一人旅で味わえたことは、よかったです。


 初めて訪れた新潟では、駅に着くなりバスが終わっていて温泉に入れなかったり、
 電車待ちで何もない駅で1時間真っ暗な中、泣きそうになって過ごしたりと、
 いろいろ心細い経験がありましたが、
 このたった5分くらいの人と話した時間が、鮮烈です。

 作られた歓迎のセリフや観光案内ではなく、
 素直に「気になってたから見てたよ」という言葉が、
 しみるように嬉しかったんだと思います。