Sopa DE Casa旅情研究所 -7ページ目

今からちょうど11年と数日前。僕は、北国のとある駅にいた。

 

その年の夏、高校2年生になった僕は、生まれて初めて、同年齢の友人だけで2人旅をした。

憧れの「青春18きっぷ」を初めて使った旅。目的地は北海道。

この話はまた後日話すことにしたいが、そのときから、ふらっと出かける旅の魅力に取りつかれたのだと思う。

 

そして、同じ年の秋。僕は生まれて初めての一人旅をした。

「初めての一人旅」。なんとも旅情漂う響きである。

 

リュックには時刻表。片手には小さな日記。

大好きな曲を詰めたMDプレーヤーをもって、

南東北から日本海へと抜けて東京に戻ってくる当時としては大冒険である(たしか土日きっぷを使った旅だったと思う)。

 

帰路に就く前日のこと。

町の駅を転々と移動していた僕だったが、帰りがけに一か所、行きたい駅があった。

 

日本で一番海に近い駅と呼ばれているその駅に降りた瞬間、

秋の日本海の、冷えた潮風が僕を出迎えた。

 

吹き付けるその風と、誰もいない駅のホーム。

ああ、思えば遠くに来たものだ(距離的には家に近づいていたけれども)。

 

当時好きだった人にフラれたこと、

新たに気になりだしたあの子にメール送ったら戻ってこない、そんななちょっと悲しいできごとが、

この風にさらされて、ひどく物寂しく僕にぶち当たってくる。そんな気分だった。

 

あれはまさに、生まれて初めて「たった一人で感じた旅情」、だったのかもしれない。

 

駅舎の中にある「訪駅ノート」に書き込みつつ、周辺を散歩した。

秋の海風が吹く中、晴れた空にきれいな空気。そして、人がいない道。

今僕は旅をしている。でも、その事実は僕しか知らない。でも確かに僕は旅をしている。

歩くという、普段となんら変わらない動作なのに、なんだかその行為がすごく楽しかった。

 

鮭をイメージした公園(中に入ってみると、ちいさな水族館みたいに、鮭に関する詳しい展示があった)や、

見たこともない大きな鉄橋などを見ながら、次の列車が来るまでゆっくり海でも眺めていようと思った僕は、

荒れ狂う海に向けて足を運んだ。

 

眼前に広がる海。周りには誰もいない。冷たい風。波。

今までの学校と自宅と塾の往復では、決して見ることができなかった景色。

憧れた一人旅の、なんともいえないセンチメンタルな思い。

 

そうだ、僕はこの気持ちを感じに来たのだ!

ああ旅情だ、胸を締め付けるぜ。

…む…むね?、いやどっちかというと、、おなかだ。

 

そうおなか!お腹が締め付けられるぜ!

 

しんみりした旅情に浸っていたまさにそのときに締め付けられていたのは、僕の胸ではなくお腹だった。

 

おなか、、いたい。。。

 

刹那、僕の心に浮かんだ言葉は、

「一人海を眺める俺、フッ、かっこいい」ではなく、「ヤバイ、トイレどこだ!!!???」であった。

 

浮かんだ景色は、郷里東京の街の暖かな光でもなく、気になる子にフラれた悲しみでもなかった。

もう、この2,30分の記憶を思い返すことに必死だった。

 

吹きすさぶ風。遮るものも何もない。トイレもどこにも見当たらない。駅にあったか?イヤなかった。いやあったかもしれない、でもなんか汚かったような。やばい、寒い!薄着しすぎたせいか。いやそんなことはどうでもいい。まさに今ピンチだ!こんなところで。。なぜだ。あああ。。。いたい。もうだめかもわからん!誰もいないけど、でもマズイ、これはまずいぞ…。

 

 

そして、僕は、全身全霊をかけて、あの鮭の公園に、メロスのように戻ってきたのであった。

おそらく人生で、あれだけ大きな音でトイレのドアを閉めたことはないと思う(これからもないようであってほしい)。

 

誰も待つ人もいないし、そんな僕を見て笑う人も(たぶん)いなかった、僕だけが知っている大切な思い出である。

 

 

 

2018年10月吉日。

 

 

▼このエピソードから、旅情を醸しだすキーワードや文章をピックアップする。

 ・生まれて初めて

 ・一人旅

 ・リュックには時刻表。片手には小さな日記。

 ・駅

 ・海

 ・誰もいない

 ・駅のホーム

 ・今僕は旅をしている。でも、その事実は僕しか知らない。でも確かに僕は旅をしている。

 ・歩くという、普段となんら変わらない動作なのに、なんだかその行為がすごく楽しかった。

 ・腹痛という身体的な苦痛

 ・思いもよらないトラブル

 ・妄想とは明らかに違う状況に対する戸惑い

 ・一度行った(もう戻らないつもりの)場所に再び戻る

 

 

▼純粋な振り返り

 この旅では、このほかにもいろんな体験があったのですが、一番に語るべくはまず、このシーンだと思いました。

 ハートフルな思い出や暖かい旅先での話もあるので、また後日書きたいです。


 一人旅というキーワードはこれからも出てくると思います、なんとなく。

 身体的苦痛が思い出に直結するのは、「トラウマ」的な記憶が人間に刻み付けられる、まさにそんな感じなのかもしれません。

 また、もともとの「その目的地で過ごす自分の理想の時間」と、あまりにかけ離れた現実(事件)が起こったことが、結果的に思い出を鮮明にさせるのかもしれませんね。

 さらに、ネタにもなりますし(実際何度もいろんな人に話しました)。

 

【身体的な感覚】、【理想と現実の差を感じさせる出来事】、【想定外】といったことが、旅情や旅の思い出に大きく影響するのではないかと考えました。

それにより感覚が研ぎ澄まされ、「ただ歩く」という日常となんら変わらない動作ですら、旅行者を楽しませるのかもしれないです。

 

 

ありがとうございました。