東急ハンズバイト時代。

ある日、人品卑しからぬ老婦人がきまして、カバンから取り出したのは、なにやらキッチンタイマーらしいもの。当時のことなので、時計のついたものではなくて、ゼンマイでキリリと回して、カリカリと時間を刻んで、チン、と鳴るヤツ、だと思われました。その時点で表面が変色するくらい古びて、おまけに壊れていましたので。

ご婦人はそれを、2年前にこの店で買ったものだが、壊れてしまったので取り替えてほしい、と言います。いろいろと難のある話ですね。まず、多くのこのような製品には、保証はあっても半年だ、ということ。そしてもうひとつ決定的なのは、東急ハンズ江坂店は2年前にはまだ存在していません。

 



当店の取り扱いではございません。2年前には当店はまだございません、と言ってお引き取り願おうとしたのですが、相当粘られました。ここで買ったのはまちがいない、んですって。アンタ、時空を超えてきているのか。

あくまでも穏やかに、その時期には当店はまだございませんし、レシートも何もないものをお取替えはしておりません、と言い続けるよりありませんでしたが、何回かやっているうちに、このご婦人の人相が変わって、それまでとは打って変わった汚い言葉を吐くようになると、結局捨て台詞を残して去って行きました。何のつもりできたのだかさっぱりわりません。

同じ時期に、神戸の三宮に「サンハンズ」という雑貨店がオープンしました。こちらはあきらかに「東急ハンズ」に乗っかろうとするコバンザメ商法で、実際そちらで買ったものを、得意げにこちらで返品・交換したい、というお客さんはしょっちゅうでした。どちらかというと、サンハンズの品物にはあまり高級ではないものが多く、また、縁もゆかりもないよその店のものなので、返品、交換はできません、と言うしかありません。

これに対しても、オマエのとこの三宮の支店だろう、とか、同じ店なのに(同じじゃない)なぜできない、と、さんざん罵声を浴びせられました。東京の本社に言いつけて、オマエなんかクビ、この店もつぶしてやる、と言われたこともありますが、これにはさすがに、本社に言っていただいたほうが、あちらとは関係がない、ということがよくわかると思いますので、どうぞお好きなように、と返していました。

今でこそインバウンドの外国人にほめてもらえる日本の美しいサービスですが、当の日本人の意識というか、程度はこんなものですからね。現在のエッセンシャルワーカーのみなさんって、本当にメンタルが強いなあ、と感心します。