オリジナル小説 【ビタースウィート・サンバを取り戻せ】(第2回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(252作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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そんなことを考えていた侭田のところに、高校の同期会の案内が届いた。高校卒業後何度かは同期会の連絡も届いていたが、最近は殆んど届くことはなかった。やはり60歳還暦と言う区切りの年齢に達したと言うことが背景にあるのだろうか、本当に久し振りの同窓会の案内だった。

定年退職後幼い頃の自分に戻りたいと考えていた侭田は、約半世紀ぶりの高校時代の風景との再会はその切っ掛けになるかもしれないと考えた。迷うことなく侭田は出席することに決めた。侭田は高校卒業後も現住所は変わっていなかったので、高校からの機関紙《きずな》も毎年1度は自宅に届いていた。

侭田が高校卒業後も連絡を取り合っていた同級生は、1人もいなかった。だから同期会に参加しても、親しく旧交を温めることが出来る同級生など全くいないかも知れなかった。それでも高校3年生の時に長くいつも一緒にいた同級生の名前だけは覚えていた。

1人は吉井でもう1人は高橋だった。侭田を含めた3人は、実家が農家で広い敷地内に自分の部屋を立ててもらっていた吉井の離れ家にいつも集まっていた。高橋の実家は駅前でレコード店をしていたので、数多くの試聴盤レコードを吉井の部屋に持ち込んでいた。侭田と吉井と高橋の3人は、卒業した中学校が同じだった。その3人が高校3年生になって初めて3人一緒のクラスになった。

3人で吉井の部屋で過ごした時間は、本当に多くの時間だった。何しろ吉井の部屋が家から離れた小部屋だったので、受験勉強合宿とか名付けて何日も泊まり込んだことも度々あった。だがさすがにそれから約半世紀も経っているので、名前と顔が一致する自信は侭田には無かった。そもそも吉井と高橋の2人が同期会に来るのかも分からなかった。

しかも今回の同期会はクラス単位の同期会でなく学年単位での開催だったので、尚更誰が誰だか全く分からないだろうと侭田は予想していた。同期会当日、侭田は高校のある街に当時からあったホテルに出掛けて行った。郊外の駅前にあるホテルのホールが、当日の会場だった。

目的のホテルの前に立った時、侭田には記憶の中のホテルはもっと大きかったと感じられた。受付にはクラス単位の受付表がセットされており、侭田は3年G組のリストを確認した。侭田は自分の名前を捜して出席のチェックを入れて用意されていた名札を胸に付けたその後すぐにリストの中に吉井と高橋の名前があるかを確認した。すると確認し始めた時に、いきなり侭田は肩を叩かれたので振り返った。

『侭田だろう?』
侭田の前に立っていたのは、胸の名札を確認するまでもなく間違いなく吉井と高橋の2人だった。2人とも昔の面影もないほど太っていたが、背の高さだけは昔のままだった。もっともよく言えば恰幅が良くなったと言えるかもしれないが、単に顔中に皺を走らせ肥えただけなのは侭田も同じだった。

『吉井と高橋だよね。本当に久し振りだな!お互い半世紀も経ったと言うのに、あの当時の面影を何処かに残している様だ』

侭田と吉井、高橋の3人は、少し恥ずかしげに握手を交わした。会場内はクラス単位の円卓が用意されており、侭田たち3人は3年G組と立札が立っているテーブルに移動した。

やはりテーブルを取り囲んでいる他の人の名札をそれとなく確認したが、侭田には誰一人として思い出す同級生はいなかった。それどころか会場の中央の演壇に登場している3人の先生のことも、名前は何となく思い出せたが印象などは全く無くなっていた。

『これほど大勢の人たちが集まっているけど、名前と顔が一致するのは俺たちだけだね。お前たちがこの場に来ていなかったら、俺はただすぐこの場から出ていくところだったよ。お前たちとの再会に感謝するよ』
吉井が会場内を見渡しながら呟いた。

『そうだな、あそこにいる先生の顔も思い出せないよ。みんな親しげに話し掛けているけど、よく覚えているな。俺なんか誰一人名前も思い出せない』
高橋が吉井に続いた。会場内では式次第に従って次から次へと壇上に、様々な肩書の人物たちが挨拶していた。侭田は早く乾杯の音頭が始まる事を待った。ようやく乾杯が終った後、侭田たち3人はお互いのグラスを重ね合わせた。

『何とかこうして60歳の姿でしかも五体満足で再会出来て良かったね。それにしてもお前たち昔の面影など影も形も無くなっているな!』
吉井が話を切り出した。
『そうだな、お互い何となく健康そうで良かった。ただ昔の面影が無くなっているのは、お前も一緒だ』
高橋が半分冗談めいた口調で言った。

『こうして同期会の連絡が届いたと言う事は、3人とも高校時代から住所が変わっていないみたいだね。意外とそれも珍しいのかもしれないぞ』
侭田もそれを確認する様な話しぶりで声を掛けた。


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる
【72】君が好きだったプレイリスト
【73】深夜放送ラプソディ
【74】マイ・ララバイ・ソング
【75】オブラディ・オブラダ
【76】ミュージック・メモリーの奇跡
【77】スティングが好きな君がいた
【78】ビーチボーイズが流れていた夏
【79】作詞家が消えた日
【80】5年前のプレイリスト
【81】ホテルカリフォルニアへ行こう
【82】アローン・アゲイン
【83】花のサンフランシコ
【84】永遠のツイスト
【85】待ってよ ミスターポストマン
【86】ビヨンド・ザ・リーフ
【87】別れの時はフランソアーズ・アルディ
【88】あの頃はビージーズだった
【89】Oneは一番悲しい数
【90】いちご白書とサークル・ゲ―ム
【91】キネマの旅人
【92】バス・ストップ物語
【93】想い出はモノクロームのはずなのに


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