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※波留は一日の仕事が終わり今日もまた充実感とは程遠い倦怠感に包まれながら、会社から重たい身体を引き摺りながら出て行こうとしていた。波留が都内の支店から今の本社のダイレクト営業部へ異動してから半年が経とうとしていた。
2年前大学を卒業して総合職として証券会社に就職していた波留は、新入社員の同期全員と一緒に支店での勤務で社会人生活をスタートさせていた。就職前に対応してくれていたリクルーターからは遅くても3年後には本社勤務になるだろうと聞かされていた波留だったが、入社1年後に波留は本社勤務となっていた。
それと言うのも波留が所属していた都内にある支店が閉店となってしまったのだ。波留が今の会社に入社してから証券会社もネット取引がメインとなっていて、支店の存在意義みたいなことが真剣に議論されていることを知った。そしてその議論の具体策として、本店のある東京都内の支店網は縮小していくことが決定したのだった。
正直短い支店勤務だったが、毎日のように支店に顔を出し波留と話をして行く永年の顧客との接点が波留には恋しく感じられて仕方なかった。勿論保有している株の話が主たる話題だったが、最後の方は色々個人的な話まで波留は耳にするまでになっていた。
そんな面前で顧客の反応を確かめることができる仕事に、波留は満足感さえ覚えるまでになっていた。ところが半年前に本社に異動となっていた波留は、電話で営業を展開するダイレクト営業部に所属して1日中電話で顧客に新たな投資先の話をしていた。
幸い波留が架電する相手は基本的には永年当社と取引のある投資家である顧客たちだったので、カスハラみたいなやりとりに接することなど皆無だった。だがだからと言って、正直やりがいを感じるなんてことには程遠い状況が続いていた。とにかく電話の向こうの顧客の存在感を感じることが出来なかった。
朝から退社時間まで、区切られたブースの中でインカムごしに顧客と話をする。波留の前にある液晶画面に映し出されている顧客情報しか目にすることなく、交わす会話と言えば顔も見えないインカムの小さいスピーカーから聞こえてくる顧客の声だけが波留の相手だった・・・。