オリジナル小説 【心にハングリー・ハートを】(最終回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(244作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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『この家で暮らすと言っても、何も無いから不便だと思うよ』
『それが何よりの予行演習になりますよ。父さん、と言うことはこの話OKということですか?』
『好きにしたらいいよ』
そう言い終わると席を立って、書棚の奥に仕舞い込んでいたスペアキーを手に取りそのまま芳雄に手渡した。
 
全くここまで慌ただしい時間が流れたのは、本当に何十年振りかのことだった。あっという間に半年が過ぎ芳雄との奇妙な英会話取得のための合宿生活は終わり、田口よりいち早く芳雄はイギリスに向けて旅立っていた。見送りの空港では、田口と宣子の2人で大勢の芳雄の友達から離れた場所から見送った。

たった半年間だったが、田口は子供と同じ屋根の下で生活を共にした。その半年間のお蔭で空港の出発口のゲートの中に消えて行く芳雄の姿を見つめる目元が熱くなるのを、田口は感じていた。半年前にはそんことなど有り得ないことだった。

そう言えば海外でサッカー選手のプロを目指す選手たちを対象としたセレクションを受験していた隼人君も、見事そのセレクションに合格してすでに芳雄と同じイギリスに旅立っていた。今芳雄と隼人君の2人から頻繁にメールで近況報告が届いていた。偶然にも行き先が同じイギリスであり同じサッカーに関わる環境にいる2人は、現地で頻繁に行き交う仲になっていた。

田口は芳雄のお蔭で課題だった語学力の壁を乗り越えることが出来、後はボランティアを受け入れる国からの最終返事を待つだけになっていた。56歳になっていた田口にこんな展開が待っていようとは、ほんの1年前までは考えてもいなかった。

最近田口は夢を見るようになっていた。目が覚めた時にそれまでみていた夢を思い出すことなんて、以前は全くなかったことだった。それが何十年振りかに宣子や成長した芳雄と再会してから、時折そんな2人と一緒に何事かをしている夢を見るようになっていた。

親しい人の存在は、夢までもたらすことになることを田口は身をもって体験していた。何故か田口が見る夢ではピッチ上に田口と芳雄が立っていて、その2人の姿をスタンドから宣子が眺めている光景が拡がっていた。今まで長い間お世話になったサッカークラブで田口がどんな仕事をしていようとも、恐らくクラブ関係者のごく一部を除けば誰一人として田口の仕事に関心など持たなかったに違いない。

それが少なくとも今は宣子、芳雄、隼人君の3人は、それなりの関心をもって見つめてくれていた。23歳になっていた芳雄の出現を、突然の宣子からの話により田口は受け入れた。そこにあったのは、幼い芳雄の元から姿を消した事に対する絶対的な謝罪の気持ちだった。田口の中では芳雄は田口により被害を被った被害者であり続けていた。

だが今の今まで芳雄に再会してから、一度たりとも正式に芳雄に謝罪をしていなかった。芳雄に会うことが出来ないでいた時には、いつかは再会した時にきちんと謝罪しようとずっと考えて来ていた。ところが実際にその様な状況が目の前に現れた時、田口の口から素直にそんな謝罪の言葉が出ることが無かった。

そうしなければいけないと言う雰囲気を芳雄が、田口に対して示さなかった事が大きかった。何より遠い昔、田口が芳雄の前から姿を消したことについて一度たりとも2人で話した事も無かった。それは田口が謝罪の言葉を切り出せないでいた事と、芳雄もそんな言葉など全く望んでいない想いを示していたからだった。

何より田口は自分勝手な受け止め方とは思ったが、芳雄には謝罪何て言う決まり文句の言葉など必要ないと考えていた。そんな過去の出来事に対する謝罪の言葉より今と言う時間の中で、2人して同じ風景を眺める事が出来る現実の積み重ねの方が余程芳雄の気持ちを心地よくさせていたに違いなかった。

ずっと長い間独りきりの世界で生きて来た田口にとって、芳雄や隼人君そして宣子の今と言う時間に想いを寄せる自分の姿はとても心地良く映っていた。田口は特定の人が今頃何をしているのかなんて、長い間考えたことも無かった。

田口にとって芳雄、隼人君、宣子の3人はたったの3人でなく、想いのありったけの感情を投げ掛けることの出来るかけがえの無い3人だった。それにしても長い間独りきりで暮らして来た自宅で、芳雄と一緒にブルース・スプリングスティーンの♪Hungry Heartを聴くなんて夢にも思っていなかった事だった。

今それまでにないほどの幸せな風景を眺めるようになっていた田口は、そんな時こそ《♪Everybody,s got a hungry heart 誰もが満たされない心を持っている》と言う歌詞を口ずさむべきだと改めて考えていた。

               了


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる
【72】君が好きだったプレイリスト
【73】深夜放送ラプソディ
【74】マイ・ララバイ・ソング
【75】オブラディ・オブラダ
【76】ミュージック・メモリーの奇跡
【77】スティングが好きな君がいた
【78】ビーチボーイズが流れていた夏
【79】作詞家が消えた日
【80】5年前のプレイリスト


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