オリジナル小説 【心にハングリー・ハートを】(第22回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(253作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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田口は自宅にいる時も、ラジオ英会話やTV英会話など色々と学べる機会を確保して取り組んでいた。そんな田口の所に等々力陸上競技場でボルシア・ドルトムントと川崎フロンターレの試合を一緒に観戦して以来久し振りに、芳雄から会いたいとの連絡が入った。

そして芳雄は迷惑でなければ、田口の家に来たいと言ってきた。何故芳雄が田口の家に来たいのかは分からなかったが、断るほどの積極的な理由もなかったので田口は芳雄を自宅に招き入れた。更に宣子が何となく芳雄と上手くいっていないことも気になっていたので、いつでも来てくれと返事をした。

田口は芳雄が生まれた時には宣子と一緒にアパート住まいをしていたが、宣子がそのアパートを出て行ってからすぐに狭い中古のマンションを購入していた。そしてその住まいに56歳になった今までずっと住み続けていた。取り敢えずその狭いマンションの部屋を簡単に清掃だけして、田口は芳雄を迎え入れる準備を済ませていた。

『迷惑でしたか?』
『別に、こんな殺風景な所でもよかったら、いつでもおいでよ』
田口はスプリングが弱ってしまって座り心地の悪くなったソファに、芳雄と2人向き合う様に腰掛けた。

『CDじゃなくて、レコードを聴いているのですか?』
壁に置いてある整理棚の上のターンテーブルを眺めながら芳雄が田口に尋ねて来た。
『何となく古いレコード以外は手元には無かったので、若い頃からずっとそのままレコードを聴いているよ。だからいつの時も聴く楽曲はオールディーズと言うことになっているよ』

『レコード見せてもらってもいいですか?』
『どうぞ!』
芳雄は立ち上がって整理棚の下に並んでいるレコードを手に取り始めた。やがて1枚のレコードを手にした。
『このレコードを聴かせてもらっていいですか?』

『レコードに上手に針を落とせるかな?』
『うちにも以前はありましたから、大丈夫だと思います』
そう言いながら芳雄は慎重にレコード針をレコードの溝に落した。芳雄が手にしていたレコードジャケットはブルース・スプリングスティーンの2枚組アルバム《ザ・リバー》だった。コンパクトなスピーカーから♪The Ties That Bindが流れ出来た。

『どうしてこのレコードを選んだの?』
田口は芳雄に尋ねてみた。
『ブルース・スプリングスティーンのコンサートに、母と一緒に行ったことがあるのでしょう。その話を母から時折聞いていたし、このレコードは家の中で何度も聴いたことがあったので懐かしいです。そう言えばこのレコードって、軽快な感じの楽曲と重厚な感じの楽曲がバランスよく含まれていて聴き応えがありますよね。訳詩も結構考えさせられる内容も多いし、素晴らしいアルバムですよね』

田口は以前スプリングスティーンがインタビューで《ロックはいつでもハッピーだけど、時にはロックには厳しさや孤独もある》と答えていたことを思い出していた。田口は芳雄が何故このレコードを選曲したのかをようやく理解した。芳雄はレコードの音量を2人の会話に邪魔にならないくらいにセットしていた。

『そう言えば、父さんサッカークラブを辞めて、外国でサッカーに関わるボランティアをするそうですね』
田口は先日宣子に話した内容を、宣子が芳雄に話した事を理解した。
『母さんが話したのだろう。まだ面接も済んでいないし、その面接時の語学のハードルをクリアできるように語学の学習から始めているところだよ』

『父さん、僕大学で1年間イギリスに留学していたから語学は結構自信あるけど、お手伝いしましょうか?』
『手伝う・・・?』
『僕のイギリスでのコーチングを学ぶスクールの開校日は半年後ですから、それまでは結構自由時間がありますからお手伝いしますよ。ここに住み込みで英語だけしか使わないで生活してみたら、かなり短期間で進歩すると思いますよ!』

田口は芳雄がたまたま今思いつきで話しているのか、それとも宣子から話を聞いた時から考えて来ていたのか分からなかった。それにしても一緒に暮らしながらと言う芳雄からの提案には、正直とても驚かされていた。
『マンツーマンで教えてもらえるのは、心強いけど・・・』

『僕も半年後からはイギリスで寮生活が待っているので、父さんの家で予行演習できるし僕にとっても有り難い話しなのです』
『母さんは・・・?』

『父さんの所なら許すって!』
気が付くとBGM代わりに流れた楽曲が、アルバムディスク1の6曲目♪Hungry Heartに変わっていた。やがて田口の耳に《♪Everybody,s got a hungry heart 誰もが満たされない心を持っている》と言う歌詞が届いて来た。今、田口が長年聴き続けてきた楽曲を芳雄と2人で聴いている。ほんの少し前まで全く考えらない出来事だった。


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる
【72】君が好きだったプレイリスト
【73】深夜放送ラプソディ
【74】マイ・ララバイ・ソング
【75】オブラディ・オブラダ
【76】ミュージック・メモリーの奇跡
【77】スティングが好きな君がいた
【78】ビーチボーイズが流れていた夏
【79】作詞家が消えた日
【80】5年前のプレイリスト


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