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《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(260作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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小説短編集 【74】マイ・ララバイ・ソング(原稿用紙30枚)


※純一はメモリースティックに自身が高校生の時に夢中になって聴いていた《夜明けの子守歌》を保存して、従弟の家に向かっていた。今大学4年生になっていた純一には、高校入学早々登校拒否になってしまった原体験があった。そんな純一は幼い頃から一緒に遊んできた今高校生の従弟が、学校へ行けなくなっているという話を耳にした。
 
 一人っ子だった純一にとって高校生の従弟は、まるで弟のように可愛い存在だった。その従弟が学校へ行けない状態にあると聞いてから、とにかく1日でも早く顔を見に行こうと純一は考えていた。取り敢えず話し相手になるだけでも考えていたが、ひょっとして従弟も高校生の時の純一と同じように眠れない夜を過ごしているのではと純一は考えた。
 
 純一は高校生の時の不登校時、毎晩眠れない時間を過ごしていた。そんな純一は偶然ラジオから流れ出て来た楽曲に、一瞬で心を奪われたという不思議な体験をしていた。AKEMIと言う名のシンガーソングライターの楽曲である《夜明けの子守歌》を、眠れない高校生の純一は毎晩のように聴き続けた。
 
 それこそ薬に頼ろうかとまで考えいた純一だったが、この楽曲をリピートさせながら聴き続けていたら知らぬ間に深い眠りに就けるようになっていたのだった。今から思えば、胸を打つような気の利いた歌詞など見当たらない楽曲だった。だがとにかく耳障りの良いメロディに合わせて眠りなさいと繰り返すだけの楽曲だった。
 
 高校へ入学してすぐに、純一は不登校状態となってしまった。その時の自身の不安な心情を思い浮かべると、すぐにでも従弟の所へ行ってあげたいと考えていたのだ。ひょっとして従弟も高校生の純一と同じような精神状態に陥っているのではと考えると、純一はじっとしていることが出来なかった。
 
 高校へ入学した純一は、例えばイジメとか周囲からの影響で不登校になった訳ではなった。色々な面で《こんなはずではない》という囁き声が、自身の内から高校生の純一の耳元に届いてきたのだった。今から思えば当時の純一は、中学時代までの義務教育期間からの解放と言うスチュエーションに拘り過ぎていたのかもしれなかった・・・。


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小説短編集 【75】オブラディ・オブラダ(原稿用紙30枚)

※沙希は、いまだに50代の若さで病死した父親の喪失感から抜け出ることが出来ないでいた。大学4年生になっていた沙希は、卒業後に洋画配給会社で働きたいという夢の実現についても母親より父親に頻繁に相談していた。ところが沙希の夢へアプローチしている姿を見ることもなく父親は旅立ってしまったのだ。
 
 沙希にとって近しい人の死は、それこそ父の死が初めてのことだった。お通夜から葬儀そして斎場までの粛々として時間が流れて行った中で、今でも沙希は自分は悪い夢をみているだけだと思うことが度々あった。しかしさすがに父親の死から半年も経っているので、今では父親のいない現実と何とか向き合おうと必死にもがいていたのだった。
  
 両親とも高校の先生の家で一人っ子として育てられた沙希は、家庭には常に両親がいて当たり前という中で育った。そんな沙希にとって居て当たり前の父親が家庭から姿を消した現実を、いまだに上手く受け入れることが出来ないでいた。とにかく大切な人が死んでし まうということが、今の沙希にとっては恐怖心に近い感覚として受け止められていた。
 
 そしてその恐怖心が上手にコントロール出来ない時間が続いていく中で、こんな悲しい結末が待っているのが分かっているのに、どうやって生きていいけばいいのだろうと考えている沙希がいたのだった。それこそ父親の次には、やがては大好きな母親もこの世からいなくなってしまう。
 
 はっきり言って母親が亡くなって、大切な父親と母親の2人に二度と会うことができない風景が必ずいつかは現実のものとなる。そんな悲しい現実が待っているのに、どうやって先へ進んでいくことが出来るというのだろう。沙希は出口のない迷路に入り込んでしまった・・・。


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