オリジナル小説 【心にハングリー・ハートを】(第8回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(253作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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『私が先輩何て!もっと隼人君と歳の近い若いスタッフさんなら分かるけど・・・』
田口は自分の気持ちを素直に隼人君に伝えた。『僕、クラブ側に是非にとお願いしたことがあります!』
『何でしょうか?』

『田口さんから芝のメンテナンスのノウハウを教えてもらうことです』
スタッフになったと聞いただけでも驚いていた田口は隼人君の更なる話を、驚きをもって受け止めていた。
『芝のメンテナンスなんかより、子供たちに隼人君の技術を教えてあげる方が良いでしょうに・・・』

『もうクラブ側の了解を得ていますので、明日から早速宜しくお願いします』
『こちらこそ、宜しく!』

最後は隼人君の勢いに田口は完全に抑え込まれていた。本当に予想外の出来事が、田口の前で現実の姿となって表れてきた。自分の息子と同じ23歳の隼人君のことが気になってばかりいたところに、あっけなく当の本人が意外な結論を田口のもとに届けて来た。

確かに冷静に考えれば今の隼人君がクラブのスタッフとして歩んで行くことは、かなりの不安定な要素を抱え込むことになることははっきりしていた。そんなことは当の隼人君自身が、一番よく承知していたかもしれなかった。

そう考えた時、田口は隼人君に余計な話をしないで済んだとある意味ホッとしていた。そして隼人君からのグランドの芝の管理のノウハウを教えて欲しいと言われ時に田口は自分の中で、勝手にこれでようやく自分の仕事を引き継ぐ最適な人が出て来たと考えない訳にはいかなかった。

今までも何人もの若いスタッフに芝の管理方法についてそのノウハウを、田口は伝授しようと試みた事だろう。でもその都度1年も経たない内に田口の前から、若いスタッフは姿を消していた。そしてそれを田口は当然のことと受け止めていた。

何故なら若いスタッフならばピッチ上の芝の管理をするよりは、そのピッチ上に再び自ら立つことを強く希望するに間違いなかった。だが今度その引き継ぐ相手に何と隼人君がなると言う。田口からすると願ってもない人選だった。

田口は今度こそ、しっかりと芝管理の後継者を育てようと考えていた。だが本当に隼人君はサッカーのプレイヤーとしの未練はないのだろうか、それだけが田口には気掛かりだった。56歳の田口にとって隼人君のこんな形での出現は、何やら田口自身のこのクラブから身を引く切っ掛けになりそうな予感を抱かせていた。

そもそも先日参加した大学サッカー部の創立80周年祝賀会で再会した同期の連中との会話の中で、漠然ともうそろそろ今の環境から姿を消す時期が来ていることを田口は感じていた。仲間たちの多くが、もう人生は終盤に差し掛かっているような言い方をしていた。

一般のサラリーマン社会では、定年間近になり後輩たちに道を譲る時期を迎えていたのだろう。極めて個人的な繋がりの濃い就労環境の中で過ごして来ていた田口には、実感できる内容ではなかったがそれでも同年齢の同期たちからの話には正直考えさせられた。

いよいよ田口が長年勤めて来たクラブを離れることを考え始めた時、なんともずっと音信不通となっていた別れた妻である田口宣子からの手紙が田口のもとに届いた。宣子は正式に田口と離婚した後も、旧姓に戻ることなく田口姓を名乗っていた。1人息子の芳雄が中学を卒業する時の写真を送って来たのが、宣子からの最後の便りだった。

あれから8年も経っていた。手紙にはただその芳雄のことで、会って話がしたいとだけ書かれていた。勿論田口は宣子からの申出を快く受け入れた。田口が別れた妻と対面するのは15年振りのことだった。その間、宣子からは芳雄の成長の区切りごとに、必ず芳雄のスナップ写真を添えて簡単な近況報告が送付されて来ていた。

しかしそれも芳雄が中学を卒業して以来、途絶えていた。いずれにしても随分と疎遠になっていた田口に芳雄のことで宣子が会いたいと言ってきたことは、芳雄に関してそれなりに大きな問題が起こっている様に田口には思えて気掛かりだった。

宣子が待ち合わせに指定したのは、1997年に2人して4歳だった芳雄を宣子の両親に預かってもらって行ったコンサート会場近くのホテルのロビーだった。当時、田口は37歳でとっくに現役サッカー選手としての将来は閉ざされていた。

それに比べて31歳だった宣子は4歳になった芳雄の幼稚園入園を機会に、子供たちの制服のリサイクル活動を始めた頃だった。正直田口と宣子との間は、この時点では埋める事の出来ない深い溝が出来上がりつつあった頃だった。1月27日月曜日東京国際フォーラムホールで行われたブルース・スプリングスティーンのコンサートに、そんな2人は珍しく2人きりで外出したのだった。


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる
【72】君が好きだったプレイリスト
【73】深夜放送ラプソディ
【74】マイ・ララバイ・ソング
【75】オブラディ・オブラダ
【76】ミュージック・メモリーの奇跡
【77】スティングが好きな君がいた


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