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小説短編集 【71】ジュークボックスが鳴り続けてる(原稿用紙30枚)
※優し過ぎた木葉への想いに豊樹は、いまだに振り回されていた。あの夜木葉の20歳の誕生日に、ふと立ち寄ったカフェバーで2人は初めて本気でお酒と向き合った。勿論それまでにも真似事くらいのお酒を口にすることがあった2人が、少しだけ背伸びをして次から次へとビールを口に運んだ。
何処かで勢いに任せて普段とは違ったことをしなければとつまらない衝動にかられた2人は、シックなカフェバーにお似合いの古いジュークボックスから流れ出ているオールディーズナンバーに合わせて不器用で不自然な動きのダンスを、互いの身体を寄せ合いながら踊り続けた。
今から半年前の忘れられない風景だった。その夜から豊樹からの連絡に木葉が全く反応することがなくなった。電話もメールも所在無げに虚しい反応のない世界に入り込んでいた。一体あの夜、2人に何があったと言うのだろう。いや豊樹が木葉に何をしたと言うのだろう。そんなことを考え続けている豊樹の頭の中では、あの日以来ジュークボックスが鳴り続けていたのだった。
※
豊樹が木葉と出会ったのは1年前のコンサートスタッフのアルバイト先だった。偶然オフィシャルグッズの販売を担当することになった2人は、互いに同じ20歳であるという事だけで何故かしら運命さえ感じているようだった。もっとも、それは豊樹だけのことだったのかもしれなかった・・・。
小説短編集 【72】君が好きだったプレイリスト(原稿用紙30枚)
※宏太が打ち合わせを終えて事務所を出ると、目の前に古木の桜からピンクの花びらが風に舞っているのが目に入った。毎年3月のこの時期になると、事務所前の桜の様子を目にすることがあったはずだが、何故だか康太には今年の桜交じりの風景が特別なように思われてならなかった。
理由など何もなかった。とにかく何となく、そう思われて仕方なかったのだ。今から2年前音響エンジニアになるための専門学校を卒業して、今の事務所に宏太は見習いスタッフとして採用されていた。それから2年、あっという間に時が流れたように宏太には思えていた。
正直今の宏太は2年間の事務所での仕事を経験して、より一層音響エンジアとして力を付けて行きたいと考えていた。高校時代バンド活動をしていた宏太は高校を卒業する時にバンド活動をメインに続けていくか、バンド活動から離脱して当時興味のあった音響エンジニアの技術を身につけるか最後の最後まで悩んだ。
高校時代組んでいたバンドがコピーを続けるかオリジナル楽曲を創るかで揉めていたこともあって、宏太は気まずい雰囲気のバンドから脱退したのだった。バンドを脱退した宏太は自らのバンド活動の中でも音響については積極的に担当していたし、大好きなバンドのライブ活動やコンサートに行ったには優れた音響技術に感動させられていた。
そんな中で宏太は最終的に高校卒業後、音響エンジニアになるための専門学校へ進学した。専門学校時代も宏太のプロの音響エンジニアになるという思いが薄れていくことなどなく、2年間で基本的な知識やスキルを身に着けることが出来ていた。
そんな宏太は専門学校時代からアルバイトとして出入りしていた音響事務所に、専門学校卒業後も引き続きお世話になていた。見習いスタッフとして採用された宏太は、2年経った今では契約スタッフとして活動をするまでになっていた・・・。