オリジナル小説 【ジャニスと踊ろう】(第12回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(257作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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南郷が店を後にしてから、桟敷はつくづく人間の出会いと別れはほんの些細な切っ掛けがもたらすものだと改めて考えさせられていた。突然林田さんの体調が優れないと言いに来た博美、真夜中の清水谷公園で出会った林田さん、そして大学病院で偶然にも再会した南郷、独りきりの世界の中にどっぷりと浸かっていた桟敷に、様々な人たちとの会話が飛び込んで来ていた。

3人と話す中で、桟敷は自分の中にいまだにこんな感情が残っていたとはと感じられることに何度も出くわした。悲しさや歓び或いはネガティブなまたはポジティブな感情の交錯、会話する人の向こうに拡がる風景を理解していたからこそそんな感情を読み取ることが桟敷には出来ていた。

それにしても3人の姿に重なるイメージの世界に比べて、桟敷自身のそれはあまりにも何も無さ過ぎたように思えてならなかった。それでも61歳になっていた今でも、桟敷はそんな自分とは違った風景を眺めて来た3人からそれなりの影響を受け始めていた。

自分で望んでいなくとも結果として大胆な人生の転換期を幾度も乗り越えて来た、博美と南郷と言う同期生たちの生きざまに桟敷は少なからず焦りを伴った刺激を受けていた。博美は林田さんが体調を崩したので、喫茶店の経営は続けられないかもしれないと言ってきた。

これも何かの巡り合わせかも知れないと、最近の桟敷はその現実を積極的に受け入れようとしていた。大学1年生の時から林田オーナーのもとで通い詰めていた喫茶店だった。そんな桟敷は61歳になっていた。もう喫茶店が物理的に閉鎖されなくとも、とっくに所謂潮時という局面は通り過ぎていたかもしれなかった。

喫茶店を辞めることになった桟敷に、何が残っているのだろうか。通り過ぎた風景がもたらしたものなど、桟敷の周囲に形あるものとしては何も残っていなかった。もっとも過去と言う言葉が投げ掛けられる時間には、そのものも更にはそのものがもたらす成果物にも一切桟敷は関心など無かった。

寧ろ61歳になっていたにも拘らず、桟敷はこれからの自分にできることは何なのかと自分自身に問い掛けていた。日々の喫茶店の開店準備に取り掛かる前に桟敷は必ずジャニス・イアンのレコードを聴いていた。

♪Will you dance Take a chance on romance and a big surprise?《踊ろうよ ロマンスや思いがけない出来事を掴もう》61歳になっていても、いつでも心はこの歌詞の心境だった。61歳になるまで桟敷は、自分の感性の赴くままに生きて来たと思っている。

自分の感性がとれほど陳腐なものであったとしても、そもそも感じる心など周囲と比較しようがないし無駄なことだと桟敷は考えていた。だからいつの時も桟敷は自分自身が感じる感覚を大切にして来た。少なくとも感じる事とは異なった方向性に自分自身を向かわせたことなど一度も無かった。

桟敷は無理に自分の感じる心を信用せずに異なった道を選択としたとしても、結局は長続きしない事を十分に承知していた。61歳の南郷は東京で新たな道を歩み始めた。アルコール依存症で悩んだことなど、今の南郷からは想像できないくらい全身から力が抜けている自然体の南郷がそこにはいた。

そして林田オーナーと一緒に歩んで来ていた61歳の博美も、何やら新たな道を捜し始めているようだった。61歳と言う年齢に辿り着いてみて、こんな風景が桟敷の前に拡がっているとは思ってもみなかったことだった。ひょっとすると何ごとも起こらずに、淡々と時間だけが過去に流れ過ぎていくことになるかもしれない。

それでも少なくとも、何かが始まるかもしれないと言う期待感に包まれている今の自分に桟敷は十分に満足していた。今更若者みたいにやりがいのある事をなんて考えている61歳の桟敷に、正直当の本人が戸惑っていた。

大学時代もそして大学卒業後も自分の居心地の良さだけを最優先して歩んで来ていた桟敷にとって、改めてやりがいのある事なんて考えることさえ気恥ずかしく感じられていた。今までずっと独りで暮らして来た桟敷は、取り敢えず暮らして行けるだけの収入さえ確保できれば良いとずっと思っていた。

だから高い収入を確保するために、本当はやりたくない事をやってきたということは一切無かった。その変わり案の定、最低限の収入しか確保できないままでやって来ていた。

そして61歳になるまで桟敷は、居心地の良さだけはずっと手に入れて過ごしてこられた。そんな桟敷が61歳の今、まるで若者みたいにやりがいのある事をなんて考え始めていた。つくづく面白い展開だと、桟敷は思わず苦笑いしていた。


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる


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