啓治の書き下ろした作品《25or6to4》は、駒井さんの早い決断であっという間に上演する方向で動き出していた。ほとんど劇団の今までの上演経験が役立たない実験的な上演だったので、予想通り俳優さんたちからは激しい拒否反応が出た。そんな俳優さんたちを一生懸命に説得してくれたのは駒井さんだった。
さすがに役者さんたちの演出までは啓治に出来なかったので、そのすべてを駒井さんにお願いした。劇団内で啓治の作品をそれなりに好意的に受け入れていたのは、美帆だけだった。啓治と同じように裏方からずっと舞台上を見続けて来ていた美帆にとっても、決まり決まった芝居の約束事に縛られた演出は感情を揺さぶるものではなかった。
そんな美帆は啓治と一緒に暮らしていることを、劇団関係者たちには秘密にしていた。勿論その事に啓治は全く異論など無かった。自然に始まった美帆との暮らしだったが、それはとても啓治にとって心地良い暮らしであったことは言うまでも無かった。啓治の書下ろし作品の上演に当たって発生した様々な葛藤は、駒井の劇団内を大いに刺激した。
それまでどちらかと言うと淡々とまるで義務的にかつ定期的に上演していた舞台とは、啓治の台本と駒井の演出による舞台は全く違った内容に仕上がって行った。そして実際にその舞台を上演したところ、いきなりそれまでの反応とは違ったシーンが次から次へと出て来た。観客席にはそれまでにはほとんど目につかなかった一般の観客の姿が、至る所に見受けられていた。
その評判を聞きつけて中小の劇団だけでなく大きな劇団の関係者たちまで、劇場に姿を現していた。当初予定していた小さな劇場での上演だけでなく、それなりの観客数が入る大きな劇場での上演を依頼する劇場主たちが駒井のもとにしきりと尋ねて来ていた。
そしてその騒ぎは駒井さんのところだけではなく、書下ろしの台本を書いた啓治のところにも様々な人種の人たちが押し寄せて来て来る形で現れていた。啓治には駒井からは早くも次回作の創作の依頼が入っていたのに加えて、押し掛けて来ていた人たちも是非作品の上演をさせてほしいと啓治に作品創作の依頼が入り込んで来ていた。
それらの依頼について、駒井さんからは積極的にチャレンジしていくようにと啓治は言われていた。その頃の啓治は幾つもの仕事が重なって、ほとんど毎日劇団内の事務所で寝泊まりしていて全く美帆のアパートに戻る事が出来なくなっていた。勿論劇団事務所内でも、啓治の机は駒井さんの隣の場所に移動していたので、美帆と劇団内でも顔を合わせる事が減少していた。
そんな状況が続いていたある日、急に美帆から劇団を辞めなければならなくなったと言う申出が駒井のもとにあった。駒井によると美帆の田舎の両親がともに倒れたために、どうしても美帆が田舎に戻らなければいけなくなったと言うことだった。
残念ながらその相談は話が決まってからも啓治には一切無かった。その話を美帆から直接でなく間接的に駒井さんから聞かされた啓治は、その夜久し振りに美帆のアパートに立ち寄ってみた。美帆の部屋にはすでに人の気配は消え去っていた。美帆が熱を出して啓治が偶然介抱をした夜から始まった2人きりの世界に、突然終わりが告げられた。
サヨナラの言葉一つも残さずに、美帆は啓治の間から姿を消したのだった。啓治はいつか台本制作の仕事も区切りがついたら、その時には又美帆のもとに帰る積りでいた。突然巻き込まれた台本の新作創作騒動の中で、啓治はすっかり美帆の姿を見失っていた。
そんな中で急に湧き起こった美帆の両親の世話の問題が、あっさりと啓治と美帆を引き裂いた。もっとも劇団の中には美帆の田舎の両親は元気なはずで、何やら別の理由があったのではないかと話すスタッフたちもいた。そんな根拠のない無駄話に付き合って行くほどの時間は、啓治のもとには当たり前だが一切無かった。
いつでも美帆のもとに帰れると思いながら今まで忙しく動き回って来ていた啓治だったが、実際に美帆の姿が消えてみるとたまらないほどの淋しさが啓治を襲ってきた。啓治はそんな淋しさから逃れるためにも駒井さんを初めとして周囲からの啓治に対する要求に応じて、次から次へと新たな書下ろし作品の創作に取りかかって行った。
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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)~1作250円
【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター
■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)~1作500円
【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ
■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)~1作100円
【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム
【5】ギターケースの中のラヴレター
【6】横浜ロックンローラー
【7】遅れて来たフラワーチルドレン
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?