オリジナル小説 【俺は今でも25or6to4】(第1回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(251作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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駅の改札口を出て大学までの細い商店街を、啓治は前を行く人の背中をぼんやりと見つめながら歩いていた。商店街の中央にあるレコード店から♪25or6to4と言うメロディが流れて来た。大学4年生の啓治が大学に入学した1970年から大好きでよく聴いていたシカゴの♪25or6to4だった。

夏休み明けの9月になり、啓治たち大学4年生の様子が急に変わりつつあった。内面的な事はよく分からないが少なくとも外見的には啓治の周囲にいる同級生たちの間では、そのままどこかの会社に出入りできるようなスーツ姿が目立って来ていた。

そして何より長髪の同級生たちの数がめっきりと減って来ていた。啓治はと言えば、相変わらず髪は肩まで伸びており着ている服と言えばTシャツGパンのままだった。啓治が鹿児島の高校を卒業して東京の大学へ通うために、神楽坂で下宿生活を始めてからもう4年間が経とうとしていた。啓治はもう卒業論文も書き上げていたので、それをゼミの教授に提出すれば卒業できる状態になっていた。

今日も大学へ行って何をすると言った予定など何も無かった。だからと言って大学卒業後の進路が決まっていなかった啓治は、狭い下宿の部屋に引き籠っている訳にはいかなかった。就職相談室のある本部棟の中央ロビーでは、スーツ姿の同級生たちが忙しげに走り回っていた。就職相談室の掲示板前には多くの同級生たちが群がっていた。

啓治はと言えば、今まで一度も就職相談室に顔を出した事も無かった。だから掲示板前の会社情報などの掲示物も目にしたことも無かった。吹き抜けになっている中央ロビーの一番通り側に近い所にあるベンチに啓治は腰掛けた。

来年の4月になったら少なくともこの場所からはいなくなることは確定していた。でも大学卒業後何処で何をするかが決まっていなかった。鹿児島の父親は1人息子の啓治に地元鹿児島の会社に就職することを期待していた。そんな両親の想いを承知していた啓治は、大学3年生になった昨年から一度も鹿児島に戻っていなかった。父親は鹿児島で小さなスーパーを3店舗経営していた。

父親はいずれ啓治に仕事を手伝ってもらって、店舗の拡大を図りたいと考えていた。その父親の想いは啓治が大学に入って東京に出て行く時から、明確に啓治に伝えられていた。ある意味4年も前の東京の大学へ進学した時から、啓治の大学卒業後の進路は決まっていたと言えた。

しかしそれはあくまでも父親の一方的な啓治への想いであり、啓治そのものは今までにそんな自分の将来を肯定した事など一度も無かった。病弱な母親は父親の気持ちとどちらかと言うと父親からの押し付けに対して反発していた啓治の気持ちの両方の間に挟まれて、ただただ困惑しているだけだった。

啓治は高校時代までの18年間親元で生活していて、大学へ進学するのを機会に親元から離れることが出来た。東京での4年間の下宿生活での独り暮らしは、啓治に多くのものをもたらしてくれていた。啓治がこの4年間で手に入れた一番大きなものは自由な空間だった。

大学での授業やアルバイトなどが入っていない限り、朝起きる時間から夜眠りに就くまで啓治は自由気ままに過ごす事が出来た。この4年間で手に入れた世界を捨て去る事など、啓治には考えられない事だった。そしてそれは卒業後の具体的な進路決定にもかなり影響を与えていた。はっきり言って東京に残ったとしても、窮屈なサラリーマン生活に入って行くことをどうしても啓治自身が想像できないでいた。

だからと言ってどうしてもやりたいことも啓治には見当たらなかった。正直大学卒業が迫って来ているにも関わらず、啓治は身動きがとれなくなって来ていた。今日はこれからゼミの担当教授との面談の予定が入っていた。啓治は自分の気持ちの整理がつかないまま教授室に入って行った。

『小久保君、就職活動の方はどんな具合ですか?他のゼミ生たちから小久保君はあまり積極的に就職活動をしていないようだと聞いていますが?』
滅多に話もしない連中なのに自分の事を教授に話す同期に、啓治は尚更距離をとりたいと考えた。

『就職活動は全くしていません』
啓治は素直に現状を教授に伝えた。
『卒業後の進路について、就職しないで何か特別に考えている事でもあるのですか?』
『今、何か自分のやりたいことを捜しているところです』
明らかに教授が不快な表情を浮かべた。確かにゼミ生たちの進路状況は、翌年度のゼミ生募集時に少なからぬ影響を与える指標だった。


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの


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