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小説短編集 【61】フォークソングが流れていた季節(原稿用紙30枚)
※成生は竹芝桟橋のベンチに腰掛け海風に身を任せていた。豊美との待ち合わせ時間までには、まだ小一時間もあった。豊美とこの場所で落ち合うようになってから早いもので2年になろうとしていた。豊美は成生の通う大学の同級生だった。
豊美とは大学1年生の時の学園祭で出逢った。成生はフォークソング部のステージで初めての演奏に臨み、そのステージの進行案内をしていたのが放送部に所属していた豊美だった。今から思えば2人とも所属している部員の中では、浮いていたように成生には思えていた。
正確に言えば、2人とも部員たちの輪に上手に入れないでいた。そう言うことだった。何となく居場所がなくなっていた成生が豊美にステージ終了後に、お茶でも飲もうと声を掛けたのだった。余計な詮索かも知れなかったが、きっと豊美も自分と同じように他の部員たちから一線をかされていると成生は一瞬で思い込んでいたのだった。
それから早いもので、大学へ入学してから2度目の学園祭が始まろうとしていた。今年はフォークソング部として学園祭のメインステージでの演奏だけでなく、部室でフォークソングに関する何らかの展示をすることとなっていた。
そんな中で成生が担当したのが、フォークソングの成り立ちに対しての簡単な掲示物を創ることだった。部室の一番奥の壁に貼り出す予定だったので、スペース的にも大きな模造紙2枚ものだった。当初パソコンの文書をプリンターのポスター印刷でプリントアウトして、模造紙に貼ろうと成生は考えた。
確かにネット上で検索した資料を、パソコン上で資料にコピペして資料はすぐに出来上がった。だがいざその資料をポスター印刷しようとした時に、成生は何処か違うような気がしてならなかった。はっきり言って資料を作成することで、成生自身が新たな気づきがそこにあったかと言えば何も無かったのだ・・・。
小説短編集 【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?(原稿用紙30枚)
※霧子は最近大学内でもアルバイト先の古書店内でも、全く集中できていない自分自身がいることを自覚していた。とにかく暇な瞬間になると霧子は、何故こうした状況に陥ってしまったのかを考え始めていた。大学2年生になったばかりの霧子は、所属していた軽音楽部内で突然他の部員たちからボイコット状態に追い込まれていたのだった。
それと言うのも大学1年生の時から軽音楽部内の3人の仲間たちと霧子は、バンド活動を続けていた。当然4人でのライングループでプライベートなことも情報交換していたが、ある時から必要最低限の連絡事項のやり取りしかしなくなっていた。
こうなった背景について霧子には心当たりがあった。と言うのは大学2年生になってからバンドとして、それまでの大好きなバンドの楽曲のコピーを卒業してオリジナル楽曲を自分たちで創って演奏しようと霧子は他のメンバー3人に申し出たのだった。その話を霧子が切り出した当時は、3人は表面上は霧子からの申し出に肯定的な反応を示してくれた。
だが具体的にオリジナル楽曲の創作の話は、何時までたっても霧子以外の3人から出ることがなかった。いよいよ時間ばかりが過ぎていく状況に耐えられなくなって、霧子の方から新しい活動内容について話をしようと切り出したのだった。
すると3人からは思いもよらない言葉が飛び出してきたのだった。ベースギター担当の朋美、ドラム担当の心菜、サイドギター担当の純玲の3人は、従来からやっていた大好きなバンドのコピーを続けていきたいと霧子に自分たちの希望を申し出たのだ。
正直霧子にとっては3人からの反応が意外だった。それと言うのも少なくとも、1年生の時から時折いつかはオリジナル楽曲を皆で創ろうと話してきていたからだった。霧子にとってみれば、いよいよ2年生になったのでその話を具体的に進めていきたいと考えただけだった。
そんな霧子に3人はオリジナル楽曲創作より好きなバンドのコピーを続けたいと言い切った。恐らく3人の間では、この件について話し合われていたのに違いなかった。そしてこの話はこの段階だけでは済まなった。と言うのも3人が一緒に、霧子が陰ではオリジナル楽曲をやりたいとずっと思っていたことがショックだったと話したのだ・・・。