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《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(251作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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★7月1日(土)2(日)、下記作品が無料購読できます

小説短編集 【14】ボーカルインストラクターの夢追い人(原稿用紙30枚) 


※土曜日の午後菜々美は、新宿通りから少し入った所にある半蔵門音楽教室に向かっていた。菜々美が今の音楽教室でボーカルインストラクターの授業を担当してから、早くも1年が過ぎようとしていた。
 
 今年40歳になる菜々美は、小学生の頃からバックコーラスの仕事していた母親の仕事場に出入りしていた。シングルマザーとして菜々美を育ててくれた母親は、一人っ子の菜々美を狭いアパートに残しておくより雑多な感じの楽屋や舞台裏に置いておくことを選択してくれていた。
 
 絶対に周りに迷惑をかけないという条件を執拗に教え込まれた菜々美は、嬉々として自分の存在感を押し殺しながら耳に入ってくる音楽に夢中になった。正直小学生の頃の原体験が今の菜々美のバックボーンに繋がっていることは間違いなかった。
 
 そんな母親が40歳を前にして高校を中退した菜々美を自分の仕事の後任として、自分が所属していた音楽事務所に一生懸命に売り込んでくれた。もっともそんな裏事情なんかには無頓着だった菜々美は自分的には極めて自然な流れの中で、バックコーラスのメンバーの一人としてステージやスタジオに出入りするようになっていた・・・。

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小説短編集 【15】写譜屋の恋物語(原稿用紙30枚)

※詩織が以前勤めていた楽譜出版社を辞めてから早くも1年が過ぎようとしていた。音楽大学を卒業して、学生時代にずっとアルバイトをしていた楽譜会社に就職したのが5年前の事だった。この5年間で楽譜出版社を取り囲んでいる環境は様変わりしていた。
 
 それというのも老舗の楽譜出版社さえ経営に行き詰り廃業するのが珍しくない状況が、詩織の前に厳しい現実となって明らかになってきていた。そもそも出版業界全体が、どんなジャンルの出版社であろうと厳しい状況となっていた。ネット社会の中で紙媒体の事業の行く末は、年々厳しくなっていた。

 そんな中で詩織がお世話になっていた楽譜出版社も勤めていた間に、何となく厳しい経営環境に陥っていることが社員間の中にも浸透するようになっていた。詩織がお世話になっていた会社は、小さな会社だったが丁寧な写譜の仕事をすることで評判の会社だった。

 会社の歴史も古く、社員さんたちの年齢も高齢の社員さんの姿が目立っていた。そんな中で詩織は当時27歳で唯一と言っていい若手社員だった。正直詩織にとって居心地の良い働きやすい職場だった。だが周囲の年配の社員さんたちの表情が次第に暗くなっていくのを見続けていた詩織は、自ら退職を会社に申し出たのだった・・・。

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小説短編集【16】スポットライト・グラフィティ(原稿用紙30枚)


※遠くに日本武道館の屋根に玉ねぎが、ぼんやりと浮かんでいた。正式名称は分からないが武道館の玉ねぎといえば通じるのは、爆風スランプの楽曲のお陰だ。時折聴こえてくる蝉の鳴き声の少なさの中で、沙織は夏の終わりを全身で感じていた。
 
 思えば武道館で行われたコンサートに何度も通う内に、沙織はいつかは自分もコンサートでの照明の仕事をしてみたいと考えるようになっていた。中学生の時から漠然と抱いていた夢を実現するために、高校卒業後沙織は照明関係の技術習得を目指して専門学校へ入学した。今から4年前のことだった。
 
 今22歳になっていた沙織は専門学校での2年間の基本的技術の習得に励んで、学校に通いながらアルバイトをしていた靖国通りの九段下交差点近くにある照明会社に契約スタッフとして入社していた。それこそ沙織は会社での2年間の仕事を経験して、いよいよ自分の仕事ぶりに対して周囲からの信頼を高めていく時期に差し掛かっていた。

 ところが残念ながら今年の春の3年目のスタッフとしての契約更新をしなかった。それと言うのも昨年末に武道館で行われたコンサートで、沙織が担当した照明セットに不具合が発生して演出上のトラブルを発生させてしまったのだ。もっとも照明エンジニアによる手当で、観衆が違和感を覚える状況には至らないで済んでいた・・・・・。

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小説短編集【17】リペアマン・ブルース(原稿用紙30枚)


※康介がギター・リペアの技術習得のために、今の専門学校へ通うようになってから1年間が経とうとしていた。今から1年前康介は高校時代から続けていたバンドを解散した。正確に言えば他のメンバー全員が、活動を続けたいと思っていた康介の意に反して解散という結末を選択していた。
 
 康介はバンドでギターを担当していたがドラム担当とリードボーカルの2人が、とにかく事あるごとに様々な局面で対立した。2人は音楽的に意見が異なっていると常々話していたが、康介にはどうにも基本的な互いの人間性への攻撃のように思えてならなかった。
 
 21歳になっていた康介と同年齢の2人に、今更大人になれと話してみたところで何の意味ないことなど分かり切ったことだった。だからこそ康介は、高校時代から5年近く続けていたバンドが解散される現実を受け入れることにした。
 
 高校卒業後楽器店でアルバイトしながらバンド活動を続けてきていた康介は、バンド活動という夢へ繋がる大切なものを突然手放さざるを得なかった。21歳の康介にとって想定外かつ大きな変更点を迎えていると言えた。少なくとも康介はそう受け止めていた・・・・・

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