レガシー
さてトランプの周辺で大統領に影響力の強いとされるのは、娘イバンカの夫のジャレド・クシュナーである。前政権ではイスラエルとアラブ諸国の外交関係の樹立に貢献した。これは、アブラハム合意と呼ばれる。この合意でイスラエルは、アラブ首長国連邦、バーレーンと外交関係を結んだ。
トランプは2期8年を務める大統領として、2期目は、そのレガシーを意識するだろう。そのレガシーの候補の一つが、サウジアラビアとイスラエルの外交関係の樹立によるアブラハム合意の拡大であり、中東和平の実現である。サウジアラビアを説得するための最低限の条件はガザでの停戦である。となるとトランプは、ガザの問題でネタニヤフに停戦を求めざるを得ないだろう。
トランプがネタニヤフを説得する材料の候補は、ネタニヤフの連立政権内の強硬派が求めるヨルダン川西岸の併合の承認だ。急進派の言葉を借りれば「ジュダヤとサマリア」へのイスラエルの主権の拡大である。これを認める。あるいは黙認するのを条件として、ガザへの停戦を求めるというのが、トランプの選択肢の一つだろう。
ただ西岸の併合宣言を行えば、サウジアラビアが求めるパレスチナ国家の樹立による問題の着地という和平案を葬る結果となる。となるとサウジアラビアとイスラエルの国交樹立という夢は、ますます遠のくだろう。ただ政治は長期ではなく短期の連続である。まずは短期での勝利を求めるというのが、一つの方策だろう。ただ娘婿のクシュナーの2期目の政権での役割は明確ではない。
ホワイトハウスのアラブ人
ここで、もう一人の娘婿にも注目しておきたい。トランプの末娘のティファニーの夫のマイケル・ブーロースである。レバノン系のキリスト教徒である。つまりアラブ人である。このマイケルの父親のマサッド・ブーロースはナイジェリアで巨大企業を経営する富豪である。日本のスズキの代理店などを務めて成功している。実は、マサッドは、大統領選挙ではミシガン州に乗り込んで20万人以上のアラブ系の有権者に働きかけた。そして、かなりのイスラム教徒を民主党支持から引きはがすのに貢献した。トランプの激戦州戦略の秘密兵器だった。また、パレスチナ自治政府のアッバス議長とトランプの間の書簡の交換の仲介をするなど、陰ながら大きな役割を果たし始めている。トランプの周辺にアラブ人がいる事実も心にとめておきたい。
マサッドは政治が好きなようで、出身地のレバノン北部では議会選挙に立候補している。選挙では敗れたものの、レバノンの大物政治家のスレイマン・ファランジと関係が深い人物のようだ。ファランジは、レバノンの大統領候補の1人でヒズボラとシリアの支援を受けている。シリアはレバノンで大きな影響力を持つ隣国だ。
そして心にとめておきたい人物が、もう一人いる。ロシアのプーチン大統領である。プーチンが中東での戦火の拡大を望んでいないのは、良く知られている。プーチンが本当にトランプに影響力があるのならば、停戦に向けて努力するように働きかけるだろう。
念のために付言すれば、トランプの後継者と見られている次期副大統領のバンスも、アメリカ・ファースト主義者である。海外への関与に積極的でない。「イスラエルとアメリカの国益は異なっている」と明言している。
最後に仮にトランプは、、ネタニヤフを止めても、次の選挙の心配がないので、アメリカ国内のイスラエル支持者の圧力に耐えられるだろう。イスラエルにとって2期目の大統領は「危ない」とされる背景である。トランプの「アメリカ・ファースト」とイスラエル支援とは、実は根本的に矛盾している。トランプにはネタニヤフを止める力は確かにあるのだ。その「力」を行使するのかどうか。近く明らかになるだろう。ちなみにトランプはアルコールを口にしない。
2024年11月14日(木) 記