バイデンという“バーテンダー”


ガザでの戦闘が始まって既に400日が過ぎた。イスラエルのネタニヤフ首相は、ガザでの作戦を止める気配を見せていない。トランプ次期大統領は、このネタニヤフを止められるだろうか。

過去1年間にわたるイスラエルによるガザやレバノンなどに対する激しい爆撃が可能だったのは、アメリカの支援があったからだ。バイデン政権は180億ドルの緊急軍事援助をイスラエルに与えた。その意味では、バイデンには、ネタニヤフを止める「力」はあった。武器弾薬の供与を停止すれば、イスラエルは戦争を続けられなくなるからだ。ただバイデンは、その「力」を行使しなかった。

その理由を推測するに、一つはバイデンのイスラエル支持という信条だろう。「シオニストになるのにユダヤ人である必要はない。私はシオニストだ」と熱心なカトリック教徒とされるバイデンは、しばしば口にしてきた。また、バイデンは過去半世紀の政治家人生で常にイスラエル支持者だった。そして、それが、つい最近までは、国内のイスラエル支持層の大半を満足させてきた。

ハリス副大統領もバイデンと同じ路線を歩んだ。バイデンとハリスは、パレスチナ人に対する同情を口にし、イスラエルに停戦を求めながら、同時にイスラエルの自衛権を擁護(ようご)し、それを可能にするための武器弾薬の供与を続けてきた。たとえてみると、アルコール依存症の客に、「お客さん、お酒は体に悪いですよ、控えなさい」と言いながら、グラスに酒を注ぎ続けるバーデンダーのような役割を果たした。しかも、このバーテンダーは、酒代を客からは取らなかった。結局は、180億ドル分の酒をアメリカの納税者の付けで注いだ。

“トランプ幼稚園”の“子供の内閣”
 

それでは次のトランプはどうだろうか。バイデンと同じように、ネタニヤフを止める力はある。その力を行使するだろうか。現段階では、トランプの中東政策は、不明瞭である。指名した閣僚の顔ぶれは「超」イスラエル寄りである。ネタニヤフに圧力をかけるのには、反対しそうな人々だ。

だが、次期政権の閣僚に指名されたのは「子ども」や「小人」ばかりだ。トランプの意向に逆らえるほどの重さの人物はいない。これが一期目のトランプ政権との違いだ。当時は、マティスやケリーの両将軍など「大人」がいたのだが。今回は「トランプ幼稚園」での大統領の「独裁」だ。

ところで、その独裁者のトランプが、「力」を行使する兆しはある。選挙では、ガザでの戦闘を終結させると訴えた。自分は平和の候補だとさえ発言している。ネタニヤフには戦争の終結を求めてきた。トランプ風の表現なら「早く、かたをつけろ!」である。「アメリカ・ファースト」を掲げる大統領が、イスラエルの戦争を支援し続けるのは、看板と矛盾する。この戦争は金がかかり過ぎている。

さらに客観的に見てもアメリカの地対空ミサイルのストックなども心細くなってきている。これではアメリカの世界戦略そのものに差し障りがでる。中東とウクライナで金と武器弾薬を使い続けていては、中国対応重視など夢のまた夢である。

イスラエルも、外交面でトランプの顔を立てる必要は感じているのか、レバノンのヒズボラとの停戦に関しては前向きだと『ワシントン・ポスト』紙が、11月14日に伝えている。トランプの就任前に、実質的な停戦を実現させて、就任後にトランプに形式的にまとめさる。そして、これをトランプの最初の外交的な勝利とさせる。つまり、レバノンの停戦をネタニヤフは「御祝儀」とするつもりのようだ。
 

>次回に続く