ガザ

 

それでは、仮にバイデンが辞退するという前提で話を進めるよう。それは民主党にとっては、少なくとも二つの面でプラスとなろう。ひとつは新しい候補者選びというドラマが生まれるので、メディアの興味は民主党に集中するだろう。これは、大きなプラスである。

 

次に、誰が候補者になったとしても、少なくともバイデンのガザ政策とは距離を置ける。すでに4万人近くがイスラエル軍によってガザで殺害されている。そのイスラエルを支持し爆弾を送り続けたのはバイデン政権である。多くの人々の目には、バイデンの手はパレスチナ人の手で汚れている。黒人などのマイノリティー、若年層、アラブ系市民、イスラム教徒などは、バイデンのガザ政策に激しく反発している。これが、バイデンの支持率の低さに反映されている。

イスラエルのガザ攻撃に反対の人々は、バイデン大統領のファースト・ネームを取って、デモでは「ジェノサイド・ジョー」と叫んでいる。

 

2020年のバイデンの勝利を可能にしたのは、こうしたマイノリティーや若年層の票であった。このままでは、この層からのバイデンへの支持は期待できない。若年層の支持が、いかに重要であったかを示すデータを一つ紹介しよう。日本と同じく、アメリカでも通常は若年層の投票率は高くない。4割程度である。ところが2020年の大統領選挙では、これが1割も上がって5割に達した。その理由の一端は、若者に人気の政治家のバーニー・サンダース上院議員が投票を呼び掛けたからであった。若年層の場合、共和党よりも民主党支持者が多いので、これがバイデンにとっては強い追い風となった。しかし、このままでは、若年層の投票率は、急降下しかねない。バイデンにとっては限りなく赤に近い黄色い警告のシグナルが点滅している状況だ。

 

最後の最大の決断

 

だが、誰にしろ別の候補者であれば、少なくともガザの流血の責任は問われないだろう。失った支持を取り戻せるかもしれない。

 

それでは誰が、バイデンに代わる候補者となりえるだろうか。副大統領のカマラ・ハリスが自然な選択ともいえる。もしハリスが候補なら初めての黒人女性の大統領の誕生をかけての選挙となる。盛り上がるだろうか。どうも人心はハリスを求めていないようだ。バイデンに劣らずハリスの支持率は低い。カリスマ性にも欠けている。多くは、他の候補者を求めている。

 

名前が挙がっているのは、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事あるいは、ミシガン州のグレッチェン・ホイットマー知事である。どちらも年齢は50代である。仮に、どちらかが民主党の候補者になれば、年齢問題は民主党のバイデンから共和党のトランプに移るだろう。1946年生まれのトランプは、1942年のバイデンよりは若いが、決して若くはないからだ。

 

もしニューサム知事ならば、アメリカで最大の人口の州のカリフォルニアは、大統領選挙では確実に取れるだろう。しかし、いずれにしろカリフォルニアは民主党の強い州である。仮にホイットマー知事が候補者となれば、最初の女性大統領の誕生をかけたキャンペーンとなる。盛り上がるだろう。またミシガンは大統領選挙の帰趨を決める激戦州のひとつである。また、この州はアラブ系キリスト教徒やイスラム教徒が多い。バイデンのガザ政策に一番批判的な人々である。2020年の大統領選挙では圧倒的な多数がバイデンに投票した。それだけにバイデンのイスラエル一辺倒の政策に反発が強い。新しい候補者であれば、地元のホイットマー知事であれば、こうした層の支持を取り戻せるだろう。

 

しかし、こうした推測はバイデンが辞退するという前提での議論である。現在の路線を続けるのか、他の候補に道を譲るのか、いずれにしろバイデンという政治家は、最後の最大の決断の時に立っている。

 

-了-