ガザ戦争

 

昨年10月にガザで戦争が始まった際、同じようにイランの支援を受けるハマスを助けるために、ヒズボラがイスラエルと戦端を開くのではと注目が集まった。ヒズボラは小規模な攻撃を開始したが、本格的には動かなかった。イスラエルも、同程度の限定的な反撃を行った。そしてイスラエル北部の国境地帯の数万の住民を中部や南部の安全な地域へと避難させた。その後も緊張状態が続いてきた。

 

ヒズボラの動きに注目が集まっていたが、実はアメリカはイスラエルの方を抑えるのに必死だった。というのは、どうせヒズボラとの戦争が不可避ならば、先制攻撃をかけたいとの考えがイスラエルには強かったからだ。

 

ヒズボラのような強大な敵と本格的に対決するためには、イスラエルは予備役を動員する必要がある。イスラエルの通常の戦力レベルは総兵力で15万人程度である。ところが予備役を動員すれば、これが50万人程度にまで膨張する。だが予備役の動員は経済的にも政治的にも重大な決断である。よほどの場合でなければ国民の納得を得られない。そして昨年10月のハマスによる奇襲攻撃は、そうしたよほどの場合だった。

 

イスラエル軍は予備役の動員により50万人にまで膨れ上がった。イスラエル指導層の一部には、これを好機と見る認識がある。またヒズボラを攻撃したいとの動機は、日に日に強まっている。というのは、イスラエル北部の住民がヒズボラの脅威の除去を要求しているからだ。そして、その後の故郷への帰還と普通の生活への復帰を望んでいるからだ。

 

またネタニヤフ首相の政治的な生き残りを、ヒズボラとの本格的な軍事対決が助けるだろうという計算もある。もし仮にアメリカの強い圧力でハマスとの停戦が実現した場合、あるいはイスラエル軍の勝利でガザの戦闘が終了した場合、はたまた別の理由でガザでの戦争が終わった場合、イスラエルでは昨年10月のハマスの奇襲を受けた責任は誰にあるのかという「戦争犯罪人」探しが本格化するだろう。ネタニヤフ首相は責任を免れない。また同首相には複数の汚職疑惑がある。となると戦争の終結はネタニヤフの失脚と刑務所送りを意味しかねない。これが、同首相がハマスの次の戦争相手を探しているという見方の根拠である。

 

そして、この6月にヒズボラがドローンで撮影したイスラエルの軍事拠点などの映像を公開した。そこには対空ミサイル、港湾、空軍基地などが映しだされている。明らかにイスラエルの防空網は、ヒズボラのドローンの活動を阻止できていない。この時期の、こうした映像の公開の意図は何か。その技術力を誇示し、ヒズボラはイスラエルの大規模な攻撃を抑止しようとしているのか。開戦が差し迫っているのだろうか。

 

-了-

 

【略年表】

7世紀

 アラブ人のペルシア征服

10~11世紀

 オマル・ハイヤームの活躍

15~18世紀

 サファヴィー朝のイラン支配

1979年

 イラン革命

1982年 6月

 イスラエルのレバノン侵攻

 同年  11月

 ヒズボラ、車両を使った自爆戦術でイスラエル軍の拠点を攻撃

1983年4月

 ベイルートのアメリカ大使館への自爆攻撃

1983年10月

 アメリカ海兵隊宿舎の爆破

 フランス軍宿舎の爆破

2000年5月

 イスラエルのレバノンからの撤退

2001年9月

 アメリカ同時多発テロ

 同年  10月

 アメリカによるアフガニスタン攻撃

2002年

 イラン核問題の表面化

2003年

 イラク戦争

2006年

 ヒズボラとイスラエルの戦争

2023年10月

 ハマスのイスラエル奇襲

2024年4月

 イスラエルがダマスカスのイラン大使館爆撃

 同年  6月

 ヒズボラがイスラエルの軍事拠点などの映像を公開