キュロスの円筒印章

 

それから約2400年後の1879年に明治でいえば12年に大英博物館の発掘隊がバビロンの遺跡で円筒の形をした粘土板を発見した。これがキュロスの円筒印章として知られている。その粘土板に文字が書かれてある。今風に読めば紀元前538年の文書である。キュロスのバビロン入城の翌年である。その文書によれば、キュロスは、自らが全世界の王であると宣言し、臣民に信仰の自由を認めている。旧約聖書にあるキュロスがユダヤ人を解放したとの記述を裏付ける記述である。

 

キュロスの円筒印章(大英博物館にて筆者撮影 2023年6月)

 

そして、この小さな円筒の形をした印章が、世界で最初の人権宣言とみなされている。その実物が大英博物館に、そしてコピーが国連本部に展示されている。

 

現代においてもイスラエルは、このキュロスへの恩を忘れていない。同国ではキュロスの円筒印章の切手が発行されている。

 

イスラエルで発行されたキュロスの円筒印章の切手

 

ヘブライ語、英語、ペルシア語で説明が添えられている。イスラエルで発行された切手にペルシア語が使われるのは珍しい。

 

そして自らがアケメネス朝ペルシア帝国の末裔だと信じるイラン人にとっても、この事件は大変な誇りをもって記憶されている。自らの祖先こそが世界で最初に信仰の自由を保障した指導者を生んだという歴史的な事実は、イランの人々の限りない誇りの源泉である。この円筒印章がイランで展示された際には、大変な数の人々が鑑賞に訪れた。

 

また、どこに住んでいようとイラン系の人々は、この歴史的事実に思いを巡らせる。たとえば2016年にロサンジェルスに、この印章をモチーフにした彫刻が完成した。ロサンジェルスはテへラン・ジェルスと呼ばれるほどイラン系の人々の多い都市である。その大半が1979年の革命以降に、現在のイスラム体制を嫌って亡命した人々である。

 

 

キュロスの円筒印章をイメージしたオブジェ(ロサンジェルスにて筆者撮影 2017年9月)

 

 

>次回に続く