すでにハマスの目的は達成した?
イスラエルは、これまでハマスのことを、「政治的に使えるから生かさず殺さず、うまく飼っとけばいい」と考えていた。実際、ハマスとイスラエルの戦闘は、これまで4回ありましたが、イスラエル側の犠牲者はすべて兵士で、数も多くはなかったので問題にならなかった。ところが今回は民間人含め約1200人が殺され、約3000人が負傷、200人以上が人質にとられた。しかも戦場となったのは自国内です。イスラエルにとって衝撃はとてつもなく大きかった。それで、もう根絶やしにするしかないということになったのですね。イスラエルは、「ハマスを絶滅させる」というスローガンを掲げ、これまでに6万5000トンの爆弾をガザへ投下したといわれています。これは広島と長崎の原爆を合わせたものの1・5倍以上に相当します。
その結果、これまでに2万7000人以上の人が殺されました。これはガザの人口の1%以上です。子どもは12分に1人の割合で命を落としている。イスラエル側は、この数字を「ハマスの保健省が出している数字に過ぎない」と強弁していますが、NHKまでがそれを踏まえて「ハマスが実行支配しているガザで、ガザの保健省によれば…」と報道している。「自民党が実効支配している東京の厚労省によれば…」なんて言わないでしょ。本当に頭に来ますね。
ただ、それだけ軍事力で圧倒的に勝るイスラエルですが、順調にことが進んでいるわけではない。10月に戦争が始まったとき、イスラエルの軍関係者は「大規模な戦争になるので、2ヶ月程度はかかる」と言っていましたが、すでに3ヶ月になります。予想以上に時間を要している。確かに海でも空でも地上でも勝ってるけれど、地下ではハマスに苦戦しているのです。ハマスが作った地下トンネルは総延長500キロと言われています。ロンドンの地下鉄の総延長が400キロ、東京の地下鉄が300キロですからどれだけ巨大な要塞か分かると思います。
ハマスからすると、すでに自分たちは勝ったと思っているかもしれません。なぜなら、この何年か、中東のアラブ諸国は、「パレスチナ人は放っておいてイスラエルとの関係を改善していけばよい」という路線で動いていたわけですが、今回の衝突によってその路線を進めるのは困難になった。また、これまで「イスラエルはホロコーストを経験した気の毒なユダヤ人たちが苦労して作った国なのだから守ってあげないといけない」と同情する声が大きかったけれど、この間、悲惨な映像を毎日見せられ、イスラエルを支持できないと思う人たちが世界中で増えてきている。
一方、米国のバイデン政権は、ヨルダン川西岸にいるパレスチナ暫定自治政府にもう1度ガザを統治させ、「統一政府」としてイスラエルと交渉させようとしてる。描いているのは、あらためてパレスチナ国家を樹立し、平和的に着地させるとい言う道筋です。しかし、ベンミヤン・ネタニヤフ首相は、統一政権と交渉などしたくないので、この方針に反対している。こうした米国とイスラエルの対立があることも認識しておくべきでしょう。
>次回につづく