反腐敗を訴え庶民から支持

 

では、いまガザを統治しているハマスとは何者か。ハマスが世に出てきたのは、1987年のことです。67年の第三次中東戦争でイスラエルが勝ち、ガザとヨルダン川西岸をイスラエルが制圧・占領して以降、割とパレスチナ人は大人しくしていましたが20年経ち、なにも変わらないためパレスチナ人たちが憤って、抗議活動というか、大衆行動を始めたんですね。石を投げたりタイヤを燃やしたりして。ハマスは「インティファーダ」と呼ばれるこの民衆蜂起の際に設立されました。

 

ハマスの母となったのは、「ムスリム同胞団」という組織です。ムスリム同胞団は1928年にエジプトで生まれたスンニ派の社会運動団体で、その後、中東各国へ拡大していきました。ムスリム同胞団の主な活動は、イスラム法の実践や慈善活動です。ハマスのメンバーは、ムスリム同胞団のパレスチナ支部に所属していましたが、社会運動ばかりやっていても埒があかないと考え、「逆らって戦おう」ということになったのです。

 

パレスチナ民族運動の指導者として知られるヤーセル・アラファトが率いるパレスチナ解放機構(PLO)の主流派「ファタハ」とはどう違うのか。簡単にいうと、ファタハは基本、世俗的なのです。線香くさくなくて、宗教の話はしない。対してハマスは宗教の話ばかりしています。アラファトは、最初、イスラエル国家を解体し、パレスチナ全土にイスラム教徒もユダヤ教徒もキリスト教徒も平和共存できる国を作ろうと闘っていましたが、途中からイスラエルと話し合い、パレスチナという国を作るという路線に転換した。一方のハマスは、「ユダヤ人が勝手に入ってきて、土地を盗んで作った国がイスラエル。よってもともと俺たちの土地なのだから、イスラエルを解体すべき」と主張しているので、イスラエルとの交渉を一切拒否しています。根底にあるのは、「もともとあの土地は、神さまがパレスチナ人にくれた土地なので、それをユダヤ人に渡すのは神さまの意思に背く行為」という考え方です。

 

ハマスが力を伸ばしたのは、民衆のアラファトやファタハへの不信も理由の一つです。イスラエルとパレスチナが互いの存在を正当性を認めた93年の「オスロ合意」でパレスチナ自治政府ができると、米国、欧州、日本から多額のODAが流れ込むようになりました。すると、アラファトの周りはそれによって潤い始め、「オスロ階級」と呼ばれる人たちが出現し出した。彼らはボルボやベンツ、BMWなどを乗り回しているのに、下々には支援の金がおりてこない。庶民は貧しいまま。そんな中、ハマスがボロボロの中古車に乗って選挙区を回り、「俺たちは権力をとっても高いビルを作り、大きなオフィスでふんぞり返ったりはしない。俺たちはモスクが事務所だから、そんなもの必要ない。よって絶対に腐敗などしない」とアピールしたのです。それが人々から支持されたのですね。

 

一方でイスラエルにとっても、ハマスの存在は決して悪いものではなかった。なぜなら、これまでPLO一つだけだった解放運動組織が、ハマスの登場で二つに分かれたからです。なぜそれが都合いいかといえば、米国がイスラエルに「パレスチナと交渉しろ」とせっつかれても、「パレスチナ人が二つに分かれてしまっているから、交渉できない。ハマスに至っては交渉しないと言っているので無理」と言い訳ができるわけです。

 

>次回につづく