解決に向けた選択肢

 

結論を言うと、サウジアラビアとアラブ首長国連邦の両国は、今回のアメリカの連合艦隊結成の提案に参加を表明していない。またフーシー派は、もし自派に対する攻撃に基地を使わせたり上空を通過させたりする国は、報復の対象とすると警告を発している。ただ艦隊を配置するだけでは、フーシー派の行動は抑止できない。また、フーシー派の発言の効果を止められない。すでに石油価格や船舶輸送の運賃は高騰している。フーシー派は紅海への機雷の敷設を示唆しているが、もし機雷が流されれば、当分の間は船舶の紅海通過は困難になる。

 

フーシー派支配地域への空爆も、問題の解決にはつながらないだろう。同派はすでに2015年から22年にかけて7年間のサウジアラビアやアラブ首長国連邦の空軍による爆撃を経験している。それも、フーシー派のミサイルを止められなかった。あの狭いガザをイスラエル軍があれだけ激しく3カ月にわたって爆撃してもハマスのロケットは止まっていない。広いイエメンに拡散されているであろうフーシー派のロケット、ミサイル、ドローンを殲滅するのは、容易ではない。おそらく爆撃は、フーシー派のアラブ世界での威信を高める結果に終わるだろう。

 

大規模なサボタージュなどもむずかしそうである。そのための十分な情報を、おそらくだれも所有していないからである。そして、イスラエルから見ればイエメンは遠い。1600キロメートルを超える。イエメンを普通の空軍機で爆撃しても、燃料切れで、機が帰還できない。となるとミサイルを使うか、あるいは空中給油機を使って途中で燃料を補給するという困難な作業が必要になる。そして最短距離を飛ぶとなるとサウジアラビアの上空を通過することになる。サウジアラビアの協力が得られるだろうか。イスラエルの軍事的な選択は限られている。

 

フーシー派が報復として周辺諸国のエネルギー関連施設を攻撃すれば、エネルギー価格は天井を抜けるだろう。こうした攻撃に対する防衛が十分にできないからこそ、サウジアラビアやアラブ首長国連邦は、イエメンの内戦の終結へと外交の舵かじを切った。いまさらイエメンに対する爆撃というのは、現実的な選択ではない。間接的な方法になるが、フーシー派に影響力をもつとされるイランにフーシー派を抑えるように働きかけるというのが、一つの外交的な選択だろう。そして、紅海経由貿易の混乱を歓迎しない諸国、とくに中国の動きも注目される。中国は、イラン原油の数少ない輸入国である。中国を説得し、イランを説得させて、イランにフーシー派を説得させるというのが、一つの道筋だろうか。

 

より直接的な「解決策」を探る場は、イエメンの内戦終結に関するサウジアラビアとフーシー派の交渉であろう。内戦後のイエメンでのフーシー派による将来の統一政権での大きな役割の保証やサウジアラビアなどによるイエメン復興への経済援助が、おそらく同派を動かすテコとなるのではないか。サウジアラビアが連合艦隊に参加しないのは賢明な判断ではないだろうか。もちろん最良の解決策は、ガザでの戦闘の停止である。これこそが、フーシー派のイスラエル権益への攻撃の大義名分となっているからである。
 

-了-