繁栄の守護者

 

さて、それではフーシー派の行動を軍事力で止められるのだろうか。2023年12月1日付けのオンライン紙『タイムズ・オブ・イスラエル』によれば、イエメンの首都のサナアのミサイルの貯蔵施設で爆発があった。記事は、その背後にイスラエルの関与を示唆している。イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエルのテレビとのインタビューで、フーシー派によるイスラエルとイスラエルがらみの船舶への攻撃を停止させるようにと国際社会に対して警告を発した。そして、もし国際社会が動かない場合には、イスラエルによる対応を示唆した。

 

こうした状況を受けてアメリカは、各国による共同軍事行動によるフーシー派の動きの封じ込めを提案している。つまり、この海域に各国が海軍の艦艇を派遣して、「連合」艦隊を組織して警備にあたるという提案である。作戦名は「繁栄の守護者」である。しかし、各国は自国の艦艇をアメリカ軍の指揮下に置くという仕組みに乗り気ではないようだ。セイシェルやバーレーンといった小国は参加を表明しているが、ヨーロッパ諸国は概して冷淡な対応である。

 

石油供給を守るために日本も、この合同作戦に参加すべきだとの議論が一部であるようだが、この議論は、前提の地理を間違えている。紅海経由で日本に来るタンカーはない。ペルシア湾とかホルムズ海峡なら、ともかく、日本の石油供給を守るために紅海の作戦に参加というのは、どうもいただけない。ただ、エネルギー安全保障ではなく、日本の貿易路を守るためにというのであれば、少しは説得力のある議論だろうか。

 

イエメンに隣接するサウジアラビアとアラブ首長国連邦の対応は、どうだろうか。というのは、この2国は、2015年3月にイエメン政府を支援して同国の内戦に介入したからだ。くり返しになるが、フーシー派の港湾を封鎖したり、激しい爆撃を行ったりした。短期間での勝利を確信していた。だが、期待に反して内戦は泥沼化した。フーシー派は、介入への報復として主としてサウジアラビアを、そして時にはアラブ首長国連邦を、ドローンや地対地ミサイルで連日のように攻撃した。石油関連施設などが目標となった。この間フーシー派は1千発のミサイルと350機のドローンをサウジアラビアに向けて発射した。その9割には誘導装置がついていた。フーシー派の技術水準の高さを示していた。

 

結局、両国は、7年後の2022年に、この内戦から手を引くためにフーシー派と交渉を開始した。同年春に停戦が合意された。その合意は同年10月には失効したが、合意内容は、実質上は守られてきた。合意の内容の骨子は、フーシー派もサウジアラビアに支援された政府も、相互に相手の支配する都市や港湾の封鎖を解除する、である。これでフーシー派支配地域の人道問題は大幅に緩和された。

 

そして、この停戦を正式に延長するための交渉がつづいており、23年10月に署名の運びとなっていた。そこでガザが爆発し、それが延期となっていた。それが、やっと12月になって、なんとか停戦の延長が合意された。これがイエメンに恒久的な平和と統一政権をもたらすかどうかは不明である。しかし、安定への大きな一歩なのは間違いない。内戦から足を抜きたいサウジアラビアが、なんとか問題の複雑化を避けようとアメリカにフーシー派を爆撃しないようにと待ったをかけたと報道されている。

>次回につづく