次の拙文を出版元の了承を得てアップいたします。

「キャラバンサライ(第144回)ガザとミシガン」、

『まなぶ』(2023年12月号)38~39ページ

------------------------------

 

ガザ情勢の展開が、アメリカのジョー・バイデン大統領の再選を危うくしている。

 

10月7日に起きたハマスと呼ばれるイスラム勢力によるイスラエルへの攻撃以来、世界の目がハマスの支配するパレスチナのガザ地区に集まっている。イスラエルは、この地域への激しい攻撃を行っている。この一連の展開において、バイデン大統領は事件発生直後から終始一貫してイスラエルに寄り添う立場を鮮明にしてきた。バイデン政権のイスラエル寄りの姿勢は、ある意味では当然だろう。

 

バイデンという人物は、半世紀にわたる政治家生活において、一貫してイスラエル支持を表明してきた。バイデンが、よく使う言葉を紹介しよう。それは、「私の父が良く口にしていた。シオニストであるのにユダヤ人である必要はない。私はシオニストだ」である。もちろんバイデン自身は熱心なカトリック教徒である。シオニストというのは、ユダヤ人国家の建設をめざす運動の活動家を意味する。

 

バイデン個人の政治信条は別としても、イスラエル支持の表明は、おそらくバイデンの最後の選挙となるであろう2024年の大統領選挙に勝つためには必要だと認識されている。アメリカ国内の親イスラエル勢力の支持をつなぎとめるために、イスラエル寄りの政策を取る以外の選択はないと見られているからだ。

 

だが、イスラエル支持一辺倒という政策にはリスクもある。というのは、イスラエル支持層は一枚岩ではないからだ。なにがなんでもイスラエル支持という人々から、現ネタニヤフ政権に批判的な層まで存在する。イスラエルは支持するが、首相は支持しないという層である。バイデンのネタニヤフ支持に、この層が反発している。

 

最近の世論調査によれば、バイデンの所属する民主党の支持層の間では、イスラエルよりもパレスチナ人に同情的な人々の方が多い。その傾向は、リベラルな層ほど強い。そして、この層が、バイデンの親イスラエル政策を批判している。

 

また、アメリカのアラブ系市民やイスラム教徒もバイデンの中東政策に反発している。ちなみに、アメリカにおけるアラブ系市民にはキリスト教徒とイスラム教徒がいる。アメリカにおけるイスラム教徒人口は、総人口の1パーセント強とみられている。実数にすると3百数十万人だろうか。なおユダヤ系の人口の約半分である。アメリカの総人口は3億5千万人程度である。

 

こうしたアラブ・イスラム系の人々の人口比が最も高いのが中西部の州、ミシガンである。自動車産業で知られた州である。

 

このミシガンは「スイング州」として知られる。つまり大統領選挙ごとに民主党が押さえたり共和党が勝ったりと変わるのである。そして大統領選挙の結果を決めるのは、ミシガンなどのスイング州の動向である。前回の2020年の大統領選挙ではバイデンがミシガン州を押さえ、ホワイトハウス入りした。その前の2016年はトランプが、この州を押さえ大統領選挙にも勝利を収めた。

 

ミシガン州の人口は1千万人であり、アラブ・イスラム系の人々は、約30万人と推測される。つまり3パーセントである。わずかな数値ではあるが、接戦のさいには、この3パーセントの動向が選挙の結果を決める。このグループにはパレスチナからの移民もいて、バイデン政権のイスラエル支持一辺倒とも見える政策に怒っている。

 

次の大統領選挙においてバイデンとトランプが民主共和の二大政党の候補者として激突すると仮定すると、この層は、どう動くだろうか。トランプの反イスラム的な政策を考えると共和党への投票は予想しづらい。となると棄権票が増えるだろうか。あるいは、もしロバート・ケネディの甥っ子が第三党から出馬すると、そちらに流れる票も出るだろうか。スイング州は激戦州でもある。2016年の大統領選挙では、トランプは、わずか1万704票でミシガンを押さえた。来年11月の大統領選挙でバイデンがミシガンを失ったゆえに敗れるというシナリオも想像できる。
 

 

-了-