出版元の了承を得て次の文書をアップします。

「異例の3期目に突入した習近平体制/問われるエネルギー政策と外交手腕」、

『まなぶ』2023年5月号、39~43ページ

 

 

エネルギー安全保障と中国外交

 

2022年10月の第20回中国共産党大会は、習近平を主席に選出した。これにより同氏の異例の3期目が決まった。国家主席の座を3期も占めるのは毛沢東以来である。毛沢東の長期支配が誤りだったとの認識から、その後は主席の在任期間を2期10年に制限してきた。習氏は、18年3月の全国人民代表大会いわゆる全人代で憲法を改正しこれを撤廃した。そして新しい制度の下での主席の初の3選となった。

 

今期も台湾問題、アメリカとの対立、人権問題など課題はつきない。だが、その中でも最も重要なのは経済だろう。人口が高齢化して行く中で、そして減少傾向を見せる中で、いかにして経済成長を維持してゆくのか。経済成長を支える要因の一つであるエネルギーに焦点を当てて中国の外交を考えてみたい。

 

中国が1990年代までエネルギーの輸出国で、日本へ石油を輸出していたのは、いまとなっては思い起こすのもむずかしい。当時の中国の最高権力者だった鄧小平が1978年に始めた改革開放路線によって同国の経済は驚異的な成長軌道に乗った。そして、それに合わせてエネルギー需要の爆発的な増大が起こった。中国は、主として石炭の利用でこれに対応した。しかし石炭は環境負荷が高い。これ以上の石炭の利用がむずかしいほど、中国の環境は悪化した。中国は、環境への負荷の比較的に軽い石油と天然ガスの利用へと傾斜した。中国は石油輸出を止め、輸入国に転落した。天然ガスの輸入も増えた。やがて日本やアメリカを上回る世界最大のエネルギー輸入国となった。

 

中国がエネルギー資源の輸入先として向かったのは、もちろん、中東である。しかし、あまりに中東地域にばかり依存するのは安全保障上の問題があるとの配慮からか、依存率は6割程度に止まっている。

 

アフリカや南米からも石油を輸入している。石油精製の能率から言えば、同じ国の同じ油田からの同じ油質の石油の輸入が望ましい。原油の構成成分は多様かつ複雑である。それぞれの油田の石油の種類に対応して製油所の装備の調整が必要だからだ。また輸送コストからしても、南米やアフリカ産の原油は中東産の原油よりも高くつく。にもかかわらず、中国は中東産の依存を深めないように配慮してきた。

 

 

図1を参照いただきたい。日本と比べてみると鮮明な違いである。日本は9割を中東産の石油に依存している。企業に輸入を任せれば、コストの一番低い原油を輸入するからである。アフリカや南米からの輸入は、政策介入がなければ私企業にはむずかしい。9割の中東依存というのは、第1次石油危機の時よりも、第2次石油危機の時よりも高い。図2の折れ線グラフを参照いただきたい。日本は中東依存の危うさに鈍感になってしまったのだろうか。

 

 

>次回につづく