半年ほど前にアップしましたが、本当に大規模な戦闘が始まりましたので、年代の誤りなどを訂正して再度掲載します。

 

 

1991年のソ連邦の崩壊以来、アルメニアとアゼルバイジャンの間でナゴルノ・カラバフをめぐる紛争が続いている。ナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャンの中のアルメニア人多数派地域である。まず1990年代のアルメニアとアゼルバイジャンの戦争でアルメニア側が勝利をおさめ、アルメニア本土とナゴルノ・カラバフを結ぶアゼルバイジャン領を制圧した。

 

2020年の戦争ではトルコの支援を受けたアゼルバイジャンが圧勝し、領土を奪回し、ナゴルノ・カラバフの3分の1も支配下に置いた。戦闘停止後にロシアの平和維持軍が派遣されて停戦を監視していた。両国間での平和条約の締結に向けた交渉が断続的に行われてきたが結実していない。アルメニアはナゴルノ・カラバフのアルメニア人に対する特別の扱いを求めているが、アゼルバイジャンは同国の市民としての平等の権利以上は付与しないとしている。また一方でアルメニアは、ナゴルノ・カラバフと同国を結ぶルートであるラチン回廊の確保を求めている。下の地図の1ではオレンジ色に塗られた部分である。他方アゼルバイジャン側は、本国とナヒチバンの飛び地を結ぶルートとトルコとアゼルバイジャンを結ぶルートを求めている。

 

2022年に入り、アルメニアとアゼルバイジャンの間で衝突が起こっている。こうした衝突の結果、アルメニアによれば、アゼルバイジャンが自国領土の一部を占領した。アゼルバイジャンによれば、そもそも国境線が不明確だとしている。軍事面ではアゼルバイジャンが圧倒的に優位にあるとみられる。こうした情勢の背景には、ロシアの影響力の低下がある。

 

ロシアの同盟国のアルメニアは、兵器の供与をモスクワに求めているが、同国自体がウクライナの戦争に手いっぱいで、その余裕はない。またロシアは、ウクライナ問題でのトルコの反発を恐れている。さらにロシア製兵器の性能にはウクライナの戦争で疑問符が付けられた。

 

さてアゼルバイジャンは、ナゴルノ・カラバフは自国の内政問題としてロシア軍の撤退を求めている。ウクライナ問題が引き起こしたエネルギー危機もあり、ヨーロッパ諸国はアゼルバイジャンを新たな供給源とみている。したがって、アゼルバイジャンを牽制する余裕はない。石油と天然ガス価格の値上がりでエネルギー輸出国のアゼルバイジャンは潤っており、資金をイスラエルやトルコからの兵器の購入に投下している。アゼルバイジャンとアルメニアの間の軍事的なバランスは、これまで以上にアゼルバイジャンに有利に傾いている。さらに、この2月にアゼルバイジャンはイスラエルに大使を派遣し外交関係を格上げしている。これはワシントンにおける強力なアルメニア・ロビー対策としてイスラエル・ロビーの支援を期待しての動きだろう。アゼルバイジャンによる軍事攻勢を懸念する声が高まっている。中央アジアとコーカサスでのロシアの影響力が低下している。これは、その一つの兆候だろう。

 

地図1 ナゴルノカラバフの周辺

https://www.crisisgroup.org/europe-central-asia/caucasus/nagorno-karabakh-conflict/266-averting-new-war-between-armenia-and-azerbaijan アクセス 2023年3月16日(木)

 

地図2 ナゴルノ・カラバフ

放送大学テレビ科目『現代の国際政治(’22)』、第14回「宗教と国際政治」から

 

地図3 イスラエル、トルコ、アルメニア、アゼルバイジャン

放送大学テレビ科目『現代の国際政治(’22)』、第14回「宗教と国際政治」から
 

-了-