出版元の承諾を得て、次の文を公開します。

「キャラバンサライ(第141回)石油輸入国サウジアラビア」、

『まなぶ』2023年9月号44~45ページ

 

 

今日はクイズ形式で始めたい。世界で一番多く石油を生産している国は、どこだろう。

 

それは、群を抜いてアメリカである。外務省の『キッズ外務省』というホームページの「世界いろいろ雑学ランキング」によると、2020年のデータで1 位はアメリカで、日量1600万バレル以上を生産している。2位はサウジアラビアで、1100万バレルである。その差は500万バレルである。3位は1千万バレル強のロシアである。

 

輸出量でみるとどうだろう。いろいろな資料を見ると、トップはサウジアラビア、2位はロシア、そして3位は(資料により年度により違ってくるが)アラブ首長国連邦だったり、イラクだったり、カナダだったりする。生産量世界一のアメリカは国内消費量も世界一なので、輸出に回せる分が比較的に少ない。今後は生産量とともに輸出量も増加するだろう、というのが専門家筋の見立てのようだ。

 

逆に、輸入量の多い国はどこだろう。

 

トップは中国で2位はインドだ。

 

3位に消費量の多いアメリカが入る。アメリカは生産量も大きいが、消費量も大きいので、減りつつあるとはいえ、まだ輸入している分もある。そして、消費量で見ると世界第1位はアメリカだが、第2位と第3 位は人口の多い中国とインドだ。

 

では、問題を少しむずかしくしよう。消費量の世界第4位はどこだろう。なんと、サウジアラビアである。同国は産油国らしく贅沢に石油を使っている。世界銀行の2021年に試算では同国の人口は3500万だが、その4倍近い人口の日本以上に石油を消費している。

 

さらに問いをむずかしくしよう。ロシアの石油を多く買っているのは、どのような国々だろう。

 

ウクライナでの大規模な戦争の前までは、ヨーロッパ諸国がロシアのガスと石油の最大の買い手だったが、2022年2月のウクライナへのロ

シアによる大規模な軍事攻撃以降は、ヨーロッパ諸国はロシアのエネルギーの輸入を減らしている。NATO(北大西洋条約機構)の加盟国の大半と日本などのG7と呼ばれる先進主要7カ国は、ロシアの石油輸出に制裁を課している。

 

ヨーロッパで売れなくなった石油は、どこに向かっているのだろうか。

 

イギリスのBBCなどによるとインドと中国が1位と2位の買い手である。ヨーロッパで売れなくなった石油をロシアは値引きしてインドや中国に販売している。インドのロシア産の石油の輸入量は、ウクライナでの大規模な戦争前の10 倍に増えている。

 

ロシア石油の輸入国として注目すべきなのがサウジアラビアである。

 

ロイター通信によれば、6月に入ってから同国のロシアからの輸入は前年比で10 倍に増加した。大産油国のサウジアラビアがなんのために石油をロシアから輸入するのだろうか。

 

サウジアラビアの石油消費量が大きい事実には既に触れた。その消費の多くは電力消費に向けられる。この砂漠の国では気温の高さに対応してエアコンを動かすための電力の消費量が大きい。同国は世界で最もエアコンの普及した国の一つとして知られる。景気よくエアコンを使う国である。夏季にはエアコンがフル稼働して電力消費を押し上げる。たとえば首都リヤドの夏の気温は体温をはるかに超え、50 度に近い。そこで、制裁下のロシアの安い石油を輸入して発電に回し、自国で生産した石油は国際価格で輸出して稼いでいる。

 

石油価格の下落を防ぐために、サウジアラビアやロシアなどの産油国の多くは生産制限を設定している。サウジアラビアは、ロシア原油を輸入することで、自国産の石油生産をあらかじめ設定した枠内に留められる。こうした計算から、大産油国サウジアラビアが、ロシアの石油の輸入国となっている。欧米が、いくらロシアの石油の輸入禁止だと叫んでも効果が薄いわけである。インド、中国ばかりかサウジアラビアまでもが欧米諸国の意向を無視した政策をとっている。サウジアラビアのアメリカ離れを象徴する風景だろうか。

 

-了-