国境を越えようとする人々

 

さて、人はさまざまな動機から移民として難民として国境を越える。国境を越える人々の動きに関しては、「移民のための国際機関(International Organization for Migration)」が多様な統計を提供している。この機関を、英語の略名のIOMとして言及しよう。IOMによれば、2020年の移民の数は世界全体で3億人に迫っている。アメリカの総人口を3億5千万とすると、その8割以上に当たる。これは世界の総人口の3・5%に当たる。おおよそ世界の人口の30人に1人は移民ということになる。大変な数の人々が国境を越えているわけだ。しかも、図1、2に示すように、これは、この年限りの特殊な現象ではない。毎年毎年多くの人々が移民となり、その数は年々増加している。

 

 

人が国境を越える理由は、政治的抑圧を逃れたり、貧困からの脱出をめざしたりである。その動機は多様である。時には大きな危険を冒しても人は国境を越えようとする。IOMによれば、2020年に地中海を渡ろうとして1万1千人が死亡している。現在生活している国で政治的な抑圧が存在する限り、そして、そこで身体財産の安全が保障されない状況がある限り、そしてなによりも豊かな国と貧しい国の間に大きな格差が存在する限り、人々は国境を越えようとするだろう。また、人を生まれた国から押し出す大きな要因は戦争である。これは他国との戦争であったり、内戦であったりする。シリア難民、イラク難民、アフガン難民、スーダン難民、いずれも戦争が生み出した難民である。

 

近年、地球温暖化によって降雨のパターンがかわり、干ばつに襲われて生活がなりゆかなくなり自国から脱出せざるを得ない状況に陥る人々も多い。さらに環境破壊は、より貴重になった水を巡る紛争を引き起こしがちである。戦争は環境破壊を生み、環境破壊は戦争を招く。地中海を渡ろうとして亡くなる人々の数の多さは、国境を越えようとするエネルギーの巨大さの傍証である。

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