八方美人外交の終わり
さて、中国の中東への進出が、すべて順調なわけではない。幾つかの問題に直面している。その一つは、国内のイスラム教徒の問題である。ウイグル人の弾圧に関しては、中国政府との関係を重視してか、イスラム世界の主要国であるサウジアラビアもイランも政府レベルでは言及しない。しかし、その事実は広く知られており、庶民レベルでの対中国感情は必ずしも芳しくない。その証拠に中国と伝統的な友好国であるパキスタンで中国人を標的としたテロが起こっている。テロリストの側は、何人を狙えば、自分たちの人気が上がるか、よくわかっているのだろう。
第二の問題は、中国の中東諸国の全てと良好な関係を構築したいという当然の期待と、地域の現実の衝突である。つまり、中東諸国の間には、さまざまな対立がある。その中で中国は全方位外交を展開してきた。対立してきたイランとサウジアラビアの調停に成功した手腕は見事である。しかし、理解しておかねばならないのは、オマーンなどの仲介により両国は既に関係改善のための折衝を水面下で行っていた。最後のシュートを決めたのは中国だが、ボールは他のプレイヤーたちによって既にストライカーの足元まで運ばれていたのだった。
しかも、両国間の接近はイスラエルにとっては、歓迎すべき展開ではない。イスラエルは、イランのアラブ諸国への脅威を煽って、アラブ諸国と接近してきたからだ。脅威のはずのイランとサウジアラビアとの間の関係改善が進むのは、不都合である。イランを孤立させようとするイスラエルの政策の足場を掘り崩してしまう。
また中国のパレスチナ暫定自治政府への支持も、同政府と本気で和平を進めるつもりのないイスラエルのネタニヤフ首相にとっては、面白くないだろう。中国はパレスチナ和平の仲介に手を挙げているが、アメリカでさえ動かせないイスラエルを、どう説得するのか。現地の目は懐疑的である。中国のお手並み拝見といったところだろうか。
中東において皆に良い顔をしようとする中国の全方位外交も、そろそろ限界に達しつつある。それを続けるには、中国の存在は余りにも大きくなり過ぎた。中国の中東における八方美人外交の時代の終わりが始まろうとしている。
-了-