進むウラン濃縮

 

遅く始まったイランとの交渉に、やっと目鼻がつき始めた段階の2021年6月に、イランで大統領選挙があった。その結果は、合意に批判的だったムハンマド・ライーシーの当選だった。ライーシー新大統領は時間を掛けて問題の再検討を行った。そして、やっと11月になって交渉が再開された。ライーシー政権は、前任のハサン・ロウハニ大統領の交渉団が進めてきた交渉の経緯を無視して、強硬な提案を新たに行ったと伝えられる。

 

これを受けて悲観論が広がった。交渉を中断すべきとの主張が米国交渉団の内部で強くなった。政府の最高レベルの判断で交渉の継続を米国は決定した。だが次席を含め一部は交渉団のポストから辞任した。

 

その後イランが態度を軟化させた。交渉の進捗が伝えられている。この変化は、イラン側の当初からの交渉戦術だったのだろうか。あるいは一部のメディアが報道したようにロシアと中国の説得をイランが受け入れたのだろうか。いずれにしろ、この段階で米国とイランを仲介するロシアの外交に注目が集まり始めた。

 

もし交渉が妥結するとすれば、さらに大きな役割をロシアが果たすことになるだろう。それが、広く共有された認識だった。なぜならば2015年の合意の際にロシアが重要な役割を果たしたからだ。既に言及したように、この合意ではイランは核開発に関して厳しい制限を受け入れた。たとえば、ウランの濃縮に関してみる。濃縮そのものは認められたものの、その濃度や量に関しては厳しい制限を課された。たとえば濃度は3.67パーセントを上限としている。これは、原子力発電の燃料としては十分な濃度だが、核兵器の製造に必要な90パーセント程度からは遠い数値である。また量的には300キログラムまでの濃縮ウランの保有を合意はイランに許している。

 

2015年のイラン核合意の成立を受けて、その制限を超えた量のウランは、ロシアに搬出された。ロシアはイランで原子炉を建設するなど平和利用の面での核開発に協力してきている。もし、イラン核合意が再建されるならば、その際にも過去のように制限の枠を超えたウランを国外に搬出する必要が出てくる。その際にはロシアが、その受入国として想定されていた。つまり核合意の再建のためには、ロシアの協力が必要である。

 

核合意の機能している状況では、イランが核兵器開発を決断しても必要量の濃縮ウランの確保に1年かかるだろうと推定されていた。だが2022年には、その期間は何週間かに短縮されていると見られていた。イランは限りなく核兵器保有能力へ近づきつつあった。合意を早期に再建して濃縮ウランをイラン国外に搬出すべきだと各国が急いでいた背景であった。

 

>次回につづく