新しい兵器の登場は、新しい戦術を生む。しかし、その間に時間の隙間がある。その例がドローン(無人航空機)だろうか。


2000年代に入って広く使われるようになったドローンは、これまでは特定の個人の殺害などに主として使われ、戦闘で大規模に使われることはなかった。ところが20年9月から11月にかけてアゼルバイジャンとアルメニアの間で戦われたナゴルノ・カラバフをめぐる戦闘では、前者が大規模にドローンを使用して後者を圧倒した。国家間の通常戦闘でドローンが大規模に使われた最初の例となった。ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンとアルメニアが長年に領有を争っていた土地である。アゼルバイジャンは、どのようにドローンを使用したのだろうか。


まず、偵察に利用してアルメニア側が巧みに隠ぺいしていた戦車などの位置を正確に把握した。次に、レーダーへの攻撃が行われ、アルメニアの防空体制を無力化した。このレーダーへの攻撃は、どのように行われたのか。


これには、二つの方法がある。一つは、オトリのドローンを相手のレーダーに向けて発射する。捕捉した相手はそれを撃墜する。しかし、それまでに相手のレーダーの使う周波数を探知し、後方に送信する。今度は、その周波数を頼りにミサイルを発射してレーダーを破壊する。これは1982年にイスラエルがレバノンに侵攻したさい、同国に配備されてあったシリア軍のソ連製の対空ミサイル施設を全滅させたときに使われた戦術である。


もう一つは、航空機からなんらかの電波を発して電子的にその機能を阻害する。そして、レーダーが効かなくなった対空ミサイル陣地を爆撃する。これは、やはり07年にイスラエルがシリアで建設中の原子炉を爆撃するさいに、シリアの防空システムを無力化するために使われたのではと推測されている方法である。


ナゴルノ・カラバフでは、どちらの方法が使われたのだろう。その詳細は不明である。どちらかが、あるいは、その両方が使われたのだろう。アルメニア側が発表したアゼルバイジャンのドローンが撃墜された映像をネットで確認できるので、最初の方法が使われたのは確実だろう。ちなみにアゼルバイジャンは1991年に旧ソ連から独立して以来、イスラエルとの密接な関係を構築してきた。


防空体制が無力化されたアルメニア側の陣地をアゼルバイジャン側が攻撃した。まず陣地と後方を結ぶ補給路を陸上からの砲撃や空爆で破壊して個々の陣地を孤立させ包囲し、陸上部隊が奪取した。そのさいにもドローンによる攻撃が大きな役割を果たした。ドローンと陸上部隊の連携による作戦がアゼルバイジャンに勝利をもたらした。


アゼルバイジャンはどこからドローンを手に入れたのであろう。すでに言及したイスラエルとトルコからだ。イスラエルは最先端を走るドローン先進国である。そしてトルコも独自にドローンの開発を進めてきた。アゼルバイジャンとトルコは同じトルコ系民族の国である。言葉も通じあう。そして同じイスラム教徒の国である。もっともトルコはスンニー派であり、アゼルバイジャンはシーア派だが。といっても後者のイスラムは柔らかい。アゼルバイジャンは長らく無神論の共産主義国家ソ連の支配下にあった。そのせいだろうか。この国ではウオッカとイスラムが仲良く共存している。


近年のトルコは、イラクやシリアやリビアなどに軍事介入してドローンを使用してきた。ドローンの運用に関して実戦で腕を磨いてきた。今回のアゼルバイジャン軍のドローンの利用に関してもトルコからの軍事顧問団の活躍が指摘されている。


ドローンという兵器が新たな戦術に結実したのが2020年のナゴルノ・カラバフだったのだろうか。この戦術の成功の意味は多い。軍事費の効率的な支出という観点から考えると比較的に高価な戦車にお金を使うより、安価なドローンに費用を投入すべきという教訓が導き出されるだろう。


-了-


※『まなぶ』2021年2月号、40~41ページに掲載