経済改革に踏み込めるか


となると国民の不満をなだめるための根本的な選択は、外交方針を変更して対外介入を止めるか、国内の経済体制を変える。あるいはその組み合わせしかない。


イラクやシリアへの支援は、ある意味では手のつけられない聖域である。14年に「イスラム国」がイラク中部を席巻した際、もしイランが介入しなければバグダッドさえ危うかった。イラン自身の安全保障のためにも、介入は不可欠であった。また80年代のイラクとの戦争時の同盟者であるシリアのアサド政権を守るというのも、ある意味体制内のコンセンサスである。事実、ハメネイ師は方針変更を拒絶している。


もう一つの聖域である各種財団や軍、革命防衛隊の経済活動に手をつけられるだろうか。こうした領域は保守派の経済的な基盤でもある。デモを背景にローハニ大統領は保守派批判を強めている。これら利権構造がイランの経済発展を阻害していると主張している。


この点で注目されるのが、ハメネイ師の最近の発言である。イランのメディアによれば、ハメネイ師が軍と革命防衛隊の経済活動を民間に移す提案に同意した。もし実際に民営化されるなら、それはイラン経済の利権構造に大きな風穴を開けるだろう。保守派の牙城に手をつける決断を本当に下したのかどうかが注目される。


この体制が今日まで生き延びてきた理由に、農村部への投資があった。もう一つの理由を挙げるとすれば、それはイスラム体制の柔軟性である。88年夏、対イラク戦争で戦局が悪化した際、当時の最高指導者・ホメイニ師は「毒杯を飲むよりつらい」としながらも停戦を受け入れた。これ以上の戦争の継続が体制の存続を脅かすと判断したからだ。フセインの首を取るまで戦うとしてきた前言を翻した。生き延びるための決断だった。


そして現在の指導者・ハメネイ師に求められているのが経済の改革である。経済改革なしに国民の不満の解消は期待できない。ハメネイ師の決断がイスラム体制の生き残りを決めるともいえる。


-了-

※東洋経済2018年2月10日号に掲載された記事です。



現代の国際政治 (放送大学教材)
高橋 和夫
放送大学教育振興会
売り上げランキング: 69,913