1990年代にトルコのイスタンブールで現地の知識人と話す機会があった。海峡の見える素敵なホテルのカフェで話し込み、いろいろと同国の情勢について教えてもらった。最後に、トルコの将来について、どう思うかと筆者の意見を求められた。


「結局はイスラム色の強い政党がトルコを支配するようになるだろう」と答えたら、ひどく嫌な顔をされた。トルコのインテリ層とイスラム勢力とは感覚的に合わないようだ。前者は後者を、洗練されていない田舎者だと見下している。


イスラム勢力が勝つだろうと私が思ったのは、当時のトルコで庶民の生活の改善のために働いているのはイスラム系政党のレファー(福祉党)だけだったからだ。当時のトルコは、地方から出てきた人々がイスタンブールやアンカラのような大都市の周辺に広大なスラム地区を形成していた。ゲジェコンド(一夜建て)と呼ばれる住居には、電気や水も十分に行き渡ってなかった。こうした層への「どぶ板」活動でレファーは支持を集めていた。


やがてレファーは連立与党となってトルコの政局の中心となった。だが、レファーがイスラム政党であり、政教の分離を定めた憲法に違反しているとして軍部が強い圧力をかけた。レファーは解党に追い込まれた。


しかし、レファーの支持層は、やがて新たな政党を樹立した。これが現在の公正発展党、現在の与党である。2002年以来、この政党が一貫して与党としてトルコの政権を担ってきた。


公正発展党の支配は、トルコ経済を一変させた。国民を悩ませていた天井知らずのインフレを押さえ込んだ。そしてトルコは、平均すると年率数パーセントの経済成長を達成した。国民には広く医療が行き渡るようになった。トルコは別の国のようになった。これが経済面で多くの庶民が現大統領であるエルドアンを支持する背景である。


そして心理的にも庶民は、それまでトルコを支配してきたエリート層に感じなかった親しみをエルドアンに覚えている。


>>次回 につづく


※まなぶ8月号に掲載されたものです。



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