不吉な予感


さて、やっと結論を述べる背景の解説が終わった。つまりIS の新たなるテロ戦術は、シリア、イラクでのアメリカとクルド人の連合軍による一連の敗北、そしてロシアの空爆の開始を受けて開始された。


経済的な苦境にも、また戦場での劣勢にもかかわらず、IS は健在なりというメッセージを発信するための戦術がテロである。であるならば、そして戦場でのIS の劣勢が続くと予想される現状では、残念ながらIS によるテロ攻勢は強まりこそすれ、弱まることはないであろう。


またIS とライバル関係にあるテロ組織であるアルカーイダも、自らの存在をアピールするために、一段と過激なテロを仕掛けてくるであろう。パリでのテロの後に発生したアフリカのマリでのホテル襲撃事件は、そうした動きの前兆であろう。そもそも海外での大規模なテロを訴えてきたアルカーイダである。IS とアルカーイダのテロでの競争の激化が懸念される。そして両者のいずれに触発されるにしろ、組織的ではない個人によるテロ、いわゆる一匹狼テロの増大も懸念される。


対症療法的なテロ対策ばかりでなく、テロを生み出す温床そのものを消滅させる根本的な解決策が求められる。その第1はシリア内戦の終結である。第2に中東における公正な社会の建設であり、第3にはヨーロッパにおける移民系の人々の統合である。いずれも見上げるほどの大きな課題である。しかし、こうした課題の克服なしには、テロなき世界の展望は描けない。



-了-


※この文書を微調整したものが、以下の形で出版されました。
『ふらんす・パリ同時テロ事件を考える』(白水社、2015年12月号)103~105ページ


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