朝日新聞のWEBRONZAに8月6日に掲載された解説です。ただ全文は、朝日新聞との関係上、高橋のブログにはアップできません。


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高橋和夫の国際政治ブログ
8月初旬共和党の大統領候補のミット・ロムニーがイスラエルを訪問した。狙いのひとつは、イスラエル支持を鮮明にしてのユダヤ人票の取り込みであった。2008年の大統領選挙ではユダヤ系市民の78パーセントがオバマに投票した。この11月の大統領選挙では、ロムニー陣営としては、この比率を少しでも下げたいところである。接戦が予想されるフロリダ州などではユダヤ人の票が重要である。共和党にとって幸いなのは、オバマ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相の関係が必ずしも芳しくないことだ。両者は政策面でも個性の面でも、そりが合わないと報道されている。


逆にロムニーとイスラエルのネタニヤフ首相の間には、さまざまな「縁」がある。ロムニーとネタニヤフは、まったく異なった背景を持っている。前者は、モルモン教徒の豊かな家庭出身である。後者は、ハイジャックされた飛行機の奪回などを任務とするイスラエルの特殊部隊出身である。およそ違う世界に住んでいた二人が出会ったのは、ボストンであった。かつて若き日の二人は、同じマサチューセッツ州で学んだ。ロムニーはハーバード大学のビジネス・スクールを、ネタニヤフはMIT(マサチューセッツ工科大学)のビジネス・スクールを、それぞれ優秀な成績で卒業している。そして 二人は、ボストンに本拠を置くBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)を就職先に選んだ。経営コンサルティング会社である。ここで両者が同僚となった。二人は、互いの才能に一目を置きあう仲となった。1970年代のことである。その後、二人は違う道を歩き始めるが、交流は続いた。ロムニーはベインというBCGのライバル会社に転職するが、ベインでの同僚の一人がネタニヤフの二人目の妻である。なおネタニヤフは三回結婚しており、現在の夫人は元スチュワーデスのサラである。


ネタニヤフは、弟ヨナタンの死亡を受けてイスラエルに帰国する。1976年ハイジャックされた民間旅客機が東アフリカのウガンダのエンテベ空港に着陸させられていた際に、はるばるイスラエルから到着した特殊部隊が、奇襲攻撃でハイジャック犯を制圧して同機と乗員乗客を無事に救出する事件があった。エンテベの奇跡と呼ばれた作戦であった。この奇跡でのイスラエル側の犠牲は、4人の乗客と救出部隊の指揮を執っていたヨナタン・ネタニヤフであった。兄のネタニヤフは、その後もBCGとの関係を持っていたが、やがて政界にデビューすることとなる。


ロムニーとネタニヤフをつないでいる二つ目の「縁」は・・・・続きを読む


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