『公研』という雑誌の依頼を受けてNHKの出川解説委員とイスラエル総選挙後の中東情勢を論じました。


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3月31日、イスラエルに新政権が発足した。
右派連立政権の誕生でパレスチナとの和平交渉、中東情勢はどのような展開を見せるのだろうか。


クライマックスが近づいてきた前回 のつづき)


高橋


これからの中東情勢を考える時に、アメリカ・イラン関係、そしてアメリカ・イスラエル関係が最も重要です。中でも、イランの核能力獲得――日本のようにウラン濃縮能力はあるけれど、核兵器はつくらないという「ジャパニーズ・オプション」を許すのかどうかが決定的に重要な問題です。もし、それは許さないということになってイランと対決すれば、アフガニスタンあるいはイラクの安定も期待できないかもしれない。


もう一つは、オバマ政権が中東全体にどういう動きをとるかですが、もしオバマ大統領が世論調査を見ながら中東政策を行うとすれば、アメリカのユダヤ人の大半はパレスチナ国家の成立による二国間共存によるパレスチナ問題の解決を望んでいるし、入植地建設に否定的です。オバマ大統領がその気になれば、ユダヤ・ロビーと対決する条件は揃っています。


もう一つ指摘したいのは、中東はイランを中心とする「イラン・シリア・ヒズボラ・ハマス」対「イスラエル・アメリカ、穏健派アラブ諸国」という構図によく塗り分けられますが、もう一つ、トルコという巨大な――イラン、エジプトに匹敵する人口七千万程度の大国があります。実はトルコとイスラエルは同盟関係にあって、これがある意味、中東の一つの軸だったわけですが、トルコの民主化が進む、トルコのイスラム化が進むということで、トルコとイスラエルの同盟関係を維持するのがだんだん困難になっています。これは注目しておきたいなと思います。


本誌


イスラエル新政権とハマスが交渉のテーブルにつく可能性はあるでしょうか。


高橋


今、見た感じは、私には兆候は見えません。ただ、ネタニヤフ首相がそうするしかないと考えれば可能性はゼロとは言えないのですが、見た感じ、とてもそういう雰囲気ではない。


出川


もしネタニヤフ首相がハマスと直接交渉しようとすれば、ネタニヤフ首相は政権を維持できないと思います。せいぜい間接的な非公式の接触とか、秘密交渉ということになる。それが精一杯だと思います。例えば、エジプトを間に立ててやるとか、そんな方法になるという気がします。実現の可能性は低いと思います。


(終)


NHK解説委員 出川 展恒


1962年東京生まれ。85年東京大学教養学部卒、NHK入局。エルサレム、カイロ両支局長などを経て、2006年から現職。
パレスチナ暫定自治合意(93年)以降の中東和平プロセスを報道。イスラエル、パレスチナ双方の首脳などとの単独会見を重ねる。


『公研』(2009年4月号) 「対話」収録