『公研』という雑誌の依頼を受けてNHKの出川解説委員とイスラエル総選挙後の中東情勢を論じました。


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3月31日、イスラエルに新政権が発足した。
右派連立政権の誕生でパレスチナとの和平交渉、中東情勢はどのような展開を見せるのだろうか。


核開発を止める可能性はゼロに近い前回 のつづき)


出川


イスラエルがイランの核開発を止める方法としては、空爆による軍事作戦で核施設を破壊する方法が一つあります。ただ、核施設は地中奥深くに建設されており、しかも一カ所だけではありません。それから、先ほども指摘したように、イランは反撃能力を持っていて、イランのミサイルはイスラエルを射程におさめています。このように考えますと、イランに簡単に手を出せる状態ではない。


それから、イスラエルからイランへの航続距離は非常に長いので、途中で戦闘機に給油しなければならないという問題もあります。また、大量の爆弾を積んだ飛行機がどの空域を通ってイラン攻撃を行うのか。どうやって作戦を継続するのかという問題があります。できれば、アメリカの積極的な協力、支援が欲しいところです。


しかし、仮にアメリカが「イランへの攻撃には協力できない」と言った場合でも、イスラエルがイランの核開発を黙って見過ごすとは思えません。地上で特殊工作員が作戦を行うなどの方法も含めて、何としても実力で阻止する行動に出るでしょう。とにかく「時間との戦い」です。


イスラエルの信頼できる消息筋は、「イスラエルにはイランの核開発を止めさせる確かな手段がある。アメリカの支持が得られなければ、単独でも実行する。その能力があるかと質問されれば一〇〇%イエスと答える」と私に述べました。具体的にどういう方法になるかは明らかにしていませんが、イスラエルが着々とその準備を進めているのは間違いないと思います。


NHK解説委員 出川 展恒


1962年東京生まれ。85年東京大学教養学部卒、NHK入局。エルサレム、カイロ両支局長などを経て、2006年から現職。
パレスチナ暫定自治合意(93年)以降の中東和平プロセスを報道。イスラエル、パレスチナ双方の首脳などとの単独会見を重ねる。


『公研』(2009年4月号) 「対話」収録


>>次回 につづく