3.鎖国派


この報告書は強い反論を引き起こしている。その一つとして著名な経済アナリストの森永卓郎氏の議論を紹介しよう。報告書が発表された翌月に『日本経団連の移民受け入れ策は亡国の政策 』と題してネット上で公開された文章の中で、森永氏は、まず移民の受け入れが賃金の低下をもたらすと警鐘を鳴らしている。


森永氏は、看護師の受け入れの例を指摘している。「どんな職種であっても労働力の供給が増えれば、賃金が低下するのは間違いない。ただでさえ所得が減ってきているところに、ますます所得が減ってしまうのである。」と警告する。労働者の所得が下がれば、これが内需を圧縮し、景気を悪くすると議論を続ける。そして若者が十分な所得を得ていない状況が、人口減の原因であり、「何よりも、本当に人口を増やしたいのならば、若い人がきちんと結婚できて、子どもがつくれるような給料を出すことが先決である」と断じている。


さらには、移民として入国する外国人にも不幸をもたらすと論じる。「受け入れ態勢が十分に整わないまま、単なる低賃金労働者として移民させられれば、ありとあらゆる差別が起こるのは目に見えている」と移民を大量に受け入れてきた欧米の社会問題に言及する。


もう一人の反対論者の埼玉大学の小野五郎教授は、外国人労働者の流入が労働者の賃金を引き下げるとの森永氏の意見に賛成する。さらに、それが既に競争力を失いつつある産業を人工的に生き延びさせ、それが日本の産業構造の高度化の足を引っ張ると論じている。


確かに日本で産業用ロボットが広く普及している背景には、欧米諸国のように低賃金の移民労働者に依存できなかったという面が有るかも知れない。日本のロボット産業の隆盛を日本人のロボット好きだけで説明するのは困難だろう。日本は世界一のロボット大国であり、日本人は減少しているが、「ロボット人口」は日本列島で増え続けている。これは、人手不足が産業構造の高度化を招いた例であろうか。


>>次回 に続く


放送大学では2009年9月の放送開始に向けて『世界の中の日本』というテレビ科目を制作中です。高橋は「世界と日本」、「外交/軌跡と針路」、「メディアの風景」、「三丁目の日没後、または人口動態と国際政治」、「異邦人か、隣人か?外国人労働者」、「イスラム教徒」、「グローバル化の行方」の7回に参画しています。アップしたのは、テキスト(印刷教材)の草稿です。